名作歌曲を通してブラームスの真髄に迫る
小山由美は日本が世界に誇るメゾソプラノ。 バイロイト音楽祭をはじめ、欧州で輝かしいキャリアを歩みつつ、国内でも幅広い役柄を演じてオペラ界の発展に貢献してきた。
室内楽には理想的な規模(300席)と音響に恵まれたHakuju Hallでも、彼女はカルメンに代表されるオペラの悪女を演じ(2016)、またプーランクから新ウィーン楽派まで20世紀前半の歌曲を歌って(2018)、いずれも好評を博してきた。3回目となる今回は、いよいよブラームスにスポットを当て、レパートリーの本丸ともいうべきドイツ・リートの精髄に迫る。
ドイツ・ロマン派は優れた詩人と作曲家を輩出したが、リートはその究極のハイブリッド。ブラームスも生涯にわたって数多くの曲を残した。小山はドイツの大学で教鞭を取り、また楽譜編纂にも実績を持つが、今回の選曲にもアカデミシャンらしさが表れている。
ブラームスがインスピレーションの源泉の一つとしてきた民謡集で始め、中・後期の創作から選りすぐりの名旋律(後にヴァイオリン・ソナタへと転用された「雨の歌」も!)を聴かせる。ドイツ語の音韻の美感を生かしつつ、曲の個性を多彩に歌い分けていくベテランの味が楽しめそうだ。締めくくるのは、ブラームス最後の大作ともいうべき「4つの厳粛な歌」で、こちらは重々しく、構成力も必要とされる。作曲家の生涯像まで浮かんできそうである。
ピアノは過去2回の公演でも共演した佐藤正浩。近年はオペラ指揮者としてますます脚光を浴びており、声の生理を知り尽くした理想的な伴奏者である。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年9月号より)
2021.10/2(土)15:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
https://www.hakujuhall.jp