8/12-13開催「サラダ音楽祭」メインコンサートの観どころ&聴きどころ

Noism Company Niigata と井関佐和子のダンスにフォーカスして

左:金森穣 (撮影:篠山紀信)
右:井関佐和子(撮影:松崎典樹)

ダンスとオーケストラの刺激的なコラボ
~Noismの出演する音楽祭ふたたび!

 本来、ダンスと音楽は不可分なものだ。

 東京都と東京都交響楽団が2018年から開催している「サラダ音楽祭」はまさに「歌う・聴く・踊る(Sing and Listen and Dance)」=SaLaDを体現したフェスティバルである。8月12日と13日に池袋の東京芸術劇場で行われるメインプログラムでは数々の名曲と共に、素晴らしいダンスが用意されている。
 「OK! オーケストラ~赤ちゃんから入場OK!」はゲーム音楽からクラシックの名曲まで、親子で楽しむコンサートで、喜歌劇《天国と地獄》序曲では近藤良平率いるコンドルズがダンスを繰り広げる。
 そして「音楽祭メインコンサート」には、昨年も東京都交響楽団と共演して大きな反響を得ていたNoism Company Niigata(以下「Noism」)が今年も登場する。

 Noismは、日本で唯一の公立劇場付のダンス・カンパニー。ひたすら「プロフェッショナルである高み」を貫いてきた芸術監督の金森穣は、モーリス・ベジャールやイリ・キリアンなど、世界的な振付家の許で活躍してきたダンサー・振付家だ。クラシック音楽への理解の深さ、音楽と動きのみずみずしい関係の結び方では、屈指の存在といえる。

舞台写真『Under the marron tree』 (撮影:篠山紀信)

 今回Noismと井関佐和子が出演するのは、大野和士指揮、吉野直子(ハープ)、小林厚子(ソプラノ)らが登場する「音楽祭メインコンサート」の5曲のうち2曲で、いずれもが金森が演出・振付を担当する。
 1曲目の『ザ・チェアマン・ダンス』は、もともとアメリカの現代作曲家ジョン・アダムズが、オペラ《中国のニクソン》の晩餐会のシーンのために作曲したもの。前半は華やかでありながら、常に緊張感が漂う。曲はときにメロディアスに、静けさに身を沈めるような旋律へと変化していく。中国風のフレーズが入り込むなどユーモアとスケール感が同居する曲だ。

 この曲を踊るのはNoism0とNoism1のダンサーである。金森が編み出した独自の身体メソッドで鍛え上げられたダンサー達は、強く精密で、高い表現力に富んでいる。様々な情景が浮かんでくるこの曲に、金森とNoismのダンサー達が、どのようなドラマを立ち上げてくるか、実に楽しみだ。

 もう一曲はマーラーの「アダージェット」(交響曲第5番より)。これはマーラーが一目で恋に落ちて結婚した運命の女性アルマ・シントラーに捧げた曲としてあまりにも有名である。
 ゆっくりと鳴る弦楽器は、不安さをはらみながら喩えようもない美しさに満ちている。愛する人への思いが胸の中に止めどもなく溢れて、全身を満たしていく名曲だ。
 この曲は、Noismの井関佐和子がソロで踊る。井関は副芸術監督であり、金森のパートナーでもある。卓越した実力はもちろんだが、金森の世界観をもっとも具現化する踊り手として、数々の作品の要を担ってきた。それぞれヨーロッパの第一線のカンンパニーでの経験を経て、Noismの設立時から共に闘ってきた同士であり、2人のユニットを組んで活動するほど仲睦まじい。

 ただこれは愛のただ中にあって、なぜか終焉の到来を予感させる不思議な曲だ。この曲を使って絶賛された名画『ヴェニスに死す』の結末や、アルマとの関係が破綻していくマーラー自身の姿とも重なってくる。愛を越えた人生の現実までをも包み込む深さを感じさせる曲である。
 金森と井関がどう挑むのか、音楽とダンスの奇跡的な出会いに期待したい。
文:乗越たかお

「サラダ音楽祭2020」より

【Information】
サラダ音楽祭 
TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2021

メインプログラム
◇OK!オーケストラ〜赤ちゃんから入場OK!
2021.8/12(木)11:00/15:00(2回公演)東京芸術劇場 コンサートホール
〈演目〉
すぎやまこういち:交響組曲「ドラゴンクエストⅤ」天空の花嫁より「序曲のマーチ」
アンダーソン:プリンク・プランク・プランク
オッフェンバック:喜歌劇《天国と地獄》序曲より(ダンス付)
ファンタスティック・メドレー(編曲:萩森英明)
サン=サーンス:歌劇《サムソンとデリラ》よりバッカナール、他

指揮:大野和士
管弦楽:東京都交響楽団
司会:小林顕作
ダンス・演出・振付:近藤良平、コンドルズ(出演)
児童合唱:東京少年少女合唱隊

◇音楽祭メインコンサート
8/13(金)15:00 東京芸術劇場 コンサートホール
〈演目〉
ジョン・アダムズ:ザ・チェアマン・ダンス(ダンス付)
カステルヌオーヴォ=テデスコ:ハープと室内管弦楽のための少協奏曲
マーラー:交響曲第5番より第4楽章 アダージエット(ダンス付)
モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス
プーランク:グローリア

指揮:大野和士
管弦楽:東京都交響楽団
ハープ:吉野直子
ソプラノ:小林厚子
ダンス:井関佐和子、Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)(演出・振付:金森穣)
合唱:新国立劇場合唱団

◇子どものためのオペラ『ゴールド!』〜少年ヤーコプとふしぎな魚のものがたり
(レオナルド・エヴァース:《ゴールド!》日本語上演/日本初演)

8/12(木), 8/13(金)各日13:00 東京芸術劇場 シアターイースト

出演:柳原由香(ソプラノ)
打楽器:池上英樹
演出・台本日本語訳:菅尾友
美術・衣装:杉浦充

※SaLaDワークショップ、SaLaDミニコンサート、SaLaDプレミアムコンサートの詳細は下記オフィシャルウェブサイトでご確認ください。

問:サラダ音楽祭事務局03-5330-3080
https://salad-music-fes.com