小宮正安(脚本) 狂言風オペラ 《ドン・ジョヴァンニ》

狂言がモーツァルトのユーモアと“共振”する

 大蔵流狂言の茂山一門とドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン管楽ゾリステンという異色コラボによる狂言風オペラ《ドン・ジョヴァンニ》が、ゴールデンウィーク前半に全国6都市で上演される。オペラといっても歌はなく、オペラを題材にした狂言風芝居といったところ。2002年に《ドン・ジョヴァンニ》でスタート。《フィガロの結婚》《魔笛》と上演を重ね、2011年にはドイツ公演も果たした。脚本を担当しているのは、ヨーロッパ文化史が専門で、クラシック音楽関連書籍の執筆や、本誌を始めとする音楽雑誌への寄稿でも活躍する小宮正安だ。
「モーツァルトのオペラを基に新しく作り直した新作ジャンルと考えてください。古典狂言の魅力は、不条理を昇華させる笑いです。そこがモーツァルトのオペラと非常に似通っている。モーツァルトのオペラのユーモアの要素と“共振”してくれるのです。例えば《椿姫》でこれをやれと言われても困っちゃう。きっとコントになっちゃうので(笑)」
 前作《魔笛》では、夜の女王が、なんと“SMの女王”に扮して鞭をふるっていた。しかも演者はもちろん男性。
「網タイツを履くので、自主的にすね毛を処理してくれたり(笑)。今回も、マゼットが名古屋弁だったり、エピローグも、あっと驚くような結末を用意してあります。茂山家は、狂言の中でも非常に柔軟な流派なのです。非常にどん欲に古典の幅を拡げる努力をしていて、何でもやるからどんどんいじってくれと言われました。ドイツ・カンマーフィルの奏者たちも、やわらかく受け止めて、楽しんでやってくれるので、今回も面白くなりそうです」
 《ドン・ジョヴァンニ》には、他2作と比べても苦労したという。
「ドン・ジョヴァンニ研究でもあまり言及されていませんが、最終的に、これはキリスト教のパロディではないかという視点に行き着きました。登場人物はみんな小悪党で、地獄堕ちするドン・ジョヴァンニという『絶対的な悪』に、自分たちの罪を転嫁したので楽しく暮らしていける。これはある意味、人間の罪を背負って十字架にかけられたイエスのパロディなのではないかと」
 なるほど慧眼! とはいえ、舞台自体は、そんな深刻な神学的問題を感じさせないエンタテインメントに仕上がっているので乞うご期待。モーツァルトを熟知していればもちろんのこと、オペラの知識がなくても理屈抜きに楽しめるはず。オペラ入門にも最適の、新しい《ドン・ジョヴァンニ》だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2014年3月号から)

★4月25日(金)・大阪/いずみホール
 26日(土)・名古屋/三井住友海上しらかわホール Lコード:45020 
 27日(日)・仙台/東京エレクトロンホール宮城 Lコード:24932
 28日(月)・遠野市民センター
 30日(水)・京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
 5月1日(木)・東京オペラシティ コンサートホール
問:ヴォイシング06-6451-6263