完璧主義・芸術至上主義を貫くペトレンコの名に恥じない、これは恐るべき完成度で仕上げられた演奏だ。高密度・大画面の映像を観るかのように、マーラーの音楽世界が鮮やかに立ち上がり、伸び伸びと呼吸して、息もつかせない迫力でクライマックスへと進んでいく。彼の交響曲の中ではぱっとしない不名誉な地位に甘んじてきた曲だが、このような解釈で聴かせられれば文句なしの名曲と言いたくなる。いや、これは交響曲というよりもはや極上の映画音楽と言ったほうがいいかもしれない。ジャンルのもつ解釈の因習を感じさせず、ごく最近書かれた曲であるかのように斬新に鳴っているのだから。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年6月号より)
【information】
CD『マーラー:交響曲第7番 ホ短調 「夜の歌」 /ペトレンコ&バイエルン国立管』
マーラー:交響曲第7番 ホ短調 「夜の歌」
キリル・ペトレンコ(指揮)
バイエルン国立管弦楽団
BSOrec/ナクソス・ジャパン
収録:2018年5月、ミュンヘン(ライブ)
NYCX-10223 ¥3300(税込)