ヴィオラで探るドイツ・ロマン派の“愛”
近年、若い世代のヴィオラの名手が世界各地で登場している。その代表的な存在と目される実力と人気を備えるのが、ロンドン出身のティモシー・リダウトである。1995年生まれ、20歳前後で複数の名門コンクールを制するなど、すでに世界を舞台に活躍。渋いイメージのあったヴィオラだが、彼の音は実に明朗。力強い右腕と豊かなヴィブラートによる音色は温かく心地よく、常に歌心も感じさせる。そのリダウトが6月、若い才能を紹介する王子ホール「transitシリーズ」に登場。ジョナサン・ウェアのピアノを伴い、待望のリサイタルを開催する。
演目はブラームスの2つのソナタと、シューマンの歌曲集「詩人の恋」のヴィオラ編曲版という、師弟関係の大作曲家たちの名作。いわばドイツ・ロマン派の魂をたどりながら、ヴィオラという楽器の真髄をも明らかにする、堂々たるプログラムだ。ブラームスは晩年の作ながら瑞々しい歌心豊かな2曲で、リダウトの豊潤な音で心洗われるような体験になるに違いない。シューマンのロマンあふれる名歌曲はリダウト自身による編曲で、「極上の、奇跡的と言っていいほどの音楽。音域と物憂げな性格がこの楽器に完璧にフィットする」と意気込みを語る。人の声に最も近いといわれるヴィオラだけに、歌詞はなくともその心情の奥底まで表現できるだろうし、あえてメインとして聴かせることでリダウトの強い意欲も伝わってくる。ヴィオラとロマン派の魅力に浸れる、愛好家ならずとも体験するべき一夜である。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年6月号より)
*新型コロナウイルスの感染拡大に伴う渡航制限によりピアノのジョナサン・ウェアが来日できなくなったため、代わりに加藤洋之が出演します(5/18主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
2021.6/4(金)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
https://www.ojihall.jp