静謐にして深遠。右手で紡ぎ出す美音はもちろん、左手の指が弦を擦る音すら、音楽の一部と成す。「チェリストにとっての聖典」とも称される、バッハの無伴奏組曲。だが、間違いなく、「すべての音楽家の聖典」でもある。日本を代表する実力派ギタリストが、自身の編曲で取り組んだ第1番〜第3番。作曲者自身が編んだリュート版を参照し、益田はギターが最もよく響く音域へと移調する一方、ギターだからこそ可能な和声の追加は、あえて最小限に。“暗示”に留めて原曲の響きの世界へ敬意を払い、撥弦楽器ならではの減衰音が軽やかさと勢いを纏わせて、傑作は新たな地平へと旅立つ。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2021年4月号より)
【information】
CD『BACH on Guitar 3 6つの無伴奏チェロ組曲 Vol.1/益田正洋』
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番〜第3番
益田正洋(ギター/編曲)
フォンテック
FOCD9845 ¥2400+税