“歌心”に浸ってください
年間を通して全国各地で様々な企画公演に引っ張りだこの彼女にとっても、特別な意味をもつ紀尾井ホールでの自主リサイタル。これまで秋に行われてきたが、14回目は3月に開催が決まった。共演は長年コンビを組んでいるピアニスト、白石光隆。こだわりのプログラムに込められたテーマが毎回楽しみなこの演奏会、今回はブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番が鍵のようだ。
「第3楽章の旋律に自身の歌曲『雨の歌』を引用したこのソナタは、フェリックス・シューマンが24歳で亡くなった直後に書かれていて、息子の死を悲しむクララを慰めるかのようなブラームスの愛と優しさがひたひたと滲み出ています。歌曲が持つ“魂を濡らす雨”という歌詞も素敵で、降るたびに気持ちも温かくなるような春の雨のイメージが3月の演奏会に相応しいと思ったのです」
何よりも“歌う楽器”としてのヴァイオリンの魅力に惹かれて、それを「今回のテーマ」とした。
「最初にヘンデルのソナタ第4番を持ってきたのも、彼がオラトリオやオペラをたくさん書いていることと、この曲がヴァイオリンから“歌心”を引き出すのに最適だと私が考えているニ長調だから。偉大な作曲家の有名なヴァイオリン協奏曲の多くはニ長調で書かれていますしね。あと“自由にして孤独”と親友ヨアヒムに言わしめたブラームスと、旅を愛し生涯独身を貫いたヘンデルにはどこか相通じるものがあると思います」
ブラームスとサン=サーンスには似ている境遇が。
「そんなヘンデルとオルガニストというところで繋がるのがサン=サーンスで、マザコンなところは歳上の女性好きなブラームスとも繋がる(笑)。ハバネラを選曲したのは、キューバ出身のヴァイオリニストと演奏旅行中、初冬のブレストで雨に降り込められたホテルでこの作品の着想を得たというエピソードが好きだからなのです」
毎回恒例のちょっぴりマニアックな楽曲として、今回彼女が選んだのはショスタコーヴィチ「24の前奏曲」など。
「スターリンによる最初の弾圧より前に書かれただけあって、この作品には孤高の天才作曲家の伸び伸びとした自由さが溢れていて弾くのが楽しいですし、音の数は少ないですが深いメッセージを感じます。最後にヴィエニャフスキの華麗なるポロネーズ第2番を持ってきたのは、彼も旅する作曲家であり、ヴィルトゥオーゾでありながら聴衆の心を揺さぶる“歌心”を持っていると思ったからです」
歌・自由・孤独…その知的探究心とイマジネーションを名器グァルネリ・デル・ジェスにのせて。いざ紀尾井町へ!
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2014年2月号から)
吉田恭子 ヴァイオリン・リサイタル Vol.14
★3月7日(金)・紀尾井ホール
問:ムジカキアラ03-5739-1739
他公演
2/15(土)・名古屋/宗次ホール
問:052-265-1718