アーティストメッセージ(66)〜森谷真理(ソプラノ)

 7月に出演する予定だった東京二期会《ルル》の題名役をはじめ、準備していた本番のほとんどがなくなりました。「がっかりした」ということはないのですが、ただ、やはり仕事に追われていたというか、期限のようなものに区切られて、そこに向かうことが中心になっていた自分に気がつきました。

 それに対して、この数ヵ月は、本当に自分の求めるものに向き合わせていただきました。
 まずは、基礎に戻って、自分の技術を見直しました。外国語の発音や発声そのものについて、今まで直したかったけれども直しきれなかった部分があって、そこに向き合う時間をとりました。
 今まで以上に楽譜を読み込む時間をとることもできました。フレージングでのニュアンスや全体の構成などを、試しにリハーサルでやってみる、ということではなく、じっくりと楽譜を読み込んで考えることができました。まるで学生に戻ったみたいな感覚でした。
 また、リモートでの講義やレッスンが一般的になったおかげで、私も海外にいらっしゃる先生にお願いして、幾度かコーチをしていただきました。

 不謹慎に聞こえるかもしれませんが、自分の歌手人生の中でこのような時間がとれたことには本当にありがたいことだと思っています。
 これまで、音楽は人の癒しであり、安心して楽しめるものと思い、それを疑うことはありませんでした。今回、その音楽が、人々に不安を与えてしまう可能性もあるのだということに気づかされました。あらゆる物事は多角的な意味があり、音楽も然り。ただ、新たな事態は新しい可能性を開く機会だと、常日頃から私は考えています。音大に進学して以来、こんなに長い期間、人前で歌うことがないことはありませんでしたが、再び皆様にお聴きいただけるときを楽しみにしております。


【出演情報】
東京二期会スペシャル・オペラ・ガラ・コンサート「希望よ、来たれ!」
2020.7/11(土)15:00 東京文化会館
http://www.nikikai.net/concert/20200711.html