沖澤のどか(指揮)

華やかなフレンチ・プロでオーケストラ定期デビュー!

C)Taira Nishimaki
 ベルリンを拠点に創造の翼を広げようとしている沖澤のどかが、来たる9月、新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉第33回の指揮台に立つ。同楽団2020/21シーズンの開幕、その一環を彩る親しみやすいフレンチ・プログラム。《カルメン》組曲第1番に「ボレロ」とは、ほほ緩む選曲だ。粋な調べが駆け巡るバーンスタインの「キャンディード」(抜粋)も添えられた。

「新日本フィルとは、(2018年10月に開催された第18回)東京国際音楽コンクール〈指揮〉の本選でもご一緒しました。指揮者とオーケストラの距離感は、国やオーケストラによって違い、それが音楽にも反映すると思いますが、新日本フィルは、コンクールで緊張していた若い指揮者に手を差し伸べてくださるオーケストラでした。同級生、先輩、後輩もいます。距離が近く、またオープンな雰囲気を感じました。ですので、気をつかわずに、自分を出すことができました。
 今回のフランス音楽とバーンスタインは、音楽監督の上岡敏之さんが決めたものですが、フランスものは私も大好きなので、素晴らしい機会をいただいたと思っています。華やかなプログラム。音楽の瞬間、瞬間に、はじける何かを出したいですね」

 青森県出身。ピアノ、チェロ、オーボエを学び、チェロは地元のジュニア・オーケストラでも弾いていた。
「高校からはオーボエも吹きました。『キャンディード』序曲、演奏したことがあります(笑)」

 東京藝術大学、同大学院で高関健らに師事した。
「高関先生は、皆さんもご存じのように、スコアの研究が音や音楽に表れる、すごい方です。信じられないほどたくさんのデータにあたり、そこで発見なさったことや見解を、弟子の私たちに惜しみなく提供してくださるのです。先生からは楽譜のこと、リハーサルのこと、すべてを教わりました。忘れられない言葉があります。『褒められた時には、それを素直に受け取りなさい』。私、自分に自信がない時期があったのです。指揮者になることを諦めようともしていましたが、救われました。学外では下野竜也先生、井上道義先生からも励ましのお言葉をいただきました」

 各国の講習会に参加。前述の東京国際音楽コンクール優勝ほか、これまでに第7回ルーマニア国際指揮者コンクールで第3位を受賞。第1回ニース・オペラ指揮者コンクールでセミファイナリストに選ばれた。オーケストラ・アンサンブル金沢の指揮研究員(2011~12年)にも迎えられた。藝大大学院修了後はベルリンのハンス・アイスラー音楽大学の大学院に留学する。2019年には東京・春・音楽祭のリッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の指揮受講生に日本人としてただ一人選ばれ、ムーティからも多くのアドバイスを受けた。
 そして同年9月、フランスで開催された第56回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。同コンクールのオーケストラから贈られるオーケストラ賞、聴衆賞も受賞する。

「ブザンソンではオペラの課題もありましたが、私、オペラ大好きなのです。藝大でも仲間とオペラを上演しましたし、二期会などで副指揮者を数えきれないほどしました。リハーサル・ピアニストや(上演で歌い手に指示を出す)プロンプターも経験しています。オペラも経験です。勉強を続けたいと思っています」

 9月の新日本フィル定期では《カルメン》組曲が控える。
「歌心、音色(ねいろ)ですよね。劇場の匂いも好きなので、そうしたものも出せれば。この日は、たくさんの思い出があるサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番もあります。透明感、繊細さ、柔らかさ。そしてやはり音色にこだわりたいです。
 オーケストラの腕の見せどころとなる『ボレロ』で大切なのは、メンバーが安心して伸び伸び演奏できる方向性を指し示すことです。音楽を整えるコントロールとソロに委ねるリリース。そのバランス感覚が求められますね。オーケストラの定期を初めて指揮する機会です。ぜひいらしてください」

 管弦楽が織り成す、色彩のグラデーション(沖澤さん談)を体感したいものである。
取材・文:奥田佳道(取材日:2020年1月10日)
(ぶらあぼ2020年6月号より)

【Profile】
東京藝術大学音楽学部指揮科首席卒業。同大学院修士課程修了。ハンス・アイスラー音楽大学ベルリン修士課程指揮専攻修了。第56回ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。同時に聴衆賞、オーケストラ賞を受賞。第18回東京国際音楽コンクール〈指揮〉にて第1位及び齋藤秀雄賞を受賞。オーケストラ・アンサンブル金沢元指揮研究員。指揮を高関健、尾高忠明、クリスティアン・エーヴァルト各氏ほかに師事。下野竜也、井上道義、パーヴォ・ヤルヴィ、クルト・マズア、リッカルド・ムーティの指導を受ける。

【Information】
新日本フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会
ルビー 〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉第33回
2020.9/11(金)、9/12(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール

指揮:沖澤のどか ヴァイオリン:シルヴィア・フアン
ビゼー:カルメン組曲第1番 サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 op.61
バーンスタイン:『キャンディード』より抜粋 ラヴェル:ボレロ 5/19(火)発売

問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp