奇を衒わず、真摯に楽譜へ対峙すれば、魅力的な演奏は必ずできる。その“お手本”と言うべき快演だ。ヴァイオリンの達人・徳永二男が、N響ソロ・コンマスを務めていた1991年、仲間たちと収録した「四季」のリマスター盤。古楽の波の中、どんどんテンポが速まった感のあるバロック作品にあっても、彼らの音楽は緩やかに、しかし、自然に流れてゆく。徳永はヴィヴァルディの1フレーズ、1音たりとも決して疎かにせず、艶やかな音色で具に現出。共演者たちも、絶妙の平衡感覚で応える。併録のイ短調協奏曲のソロ・パートは、教則本でお馴染みの編曲版で収録。懐かしい思いに捉われる向きも多かろう。
文：寺西 肇
（ぶらあぼ2020年6月号より）
【information】
SACD『ヴィヴァルディ：「四季」／徳永二男＆NHK室内合奏団』
ヴィヴァルディ：協奏曲集「四季」op.8、協奏曲集「調和の霊感」よりヴァイオリン協奏曲 イ短調 op.3-6
徳永二男（ヴァイオリン）
NHK室内合奏団
オクタヴィア・レコード
OVCL-00725 ￥3200＋税