クルレンツィスの「運命」となれば当然、新鮮な衝撃を期待する。しかしこの曲でそれが可能だろうか? 結論から言えば、本作はクルレンツィスが解説に記した“最初の衝撃”を鮮烈に与える演奏だ。まずは快速テンポでの推進力は比類なく、「運命動機」が全楽章で明確に示され、第4楽章に加わる新楽器の意味が強調される。そしてフレージングやアーティキュレーション、バランス(特にこれ)が根底から一新され、住み慣れた家が、内装だけのメンテによって全く別の住まいに変わったような感触がもたらされる。「運命」でこれが可能だとは……いやはや恐れ入る。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2020年5月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/クルレンツィス&ムジカエテルナ』
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
テオドール・クルレンツィス(指揮)
ムジカエテルナ
ソニーミュージック
SICC-30561 ¥2200+税