太田糸音(ピアノ)

溢れんばかりの演奏意欲とチャレンジ精神旺盛な逸材登場

 最近、個性的な若手ピアニストの台頭が目立つが、太田糸音もそのひとり。両親ともに音楽家という家庭に育ち、3歳から音楽教室で学び、作曲家になりたいという夢を抱くようになる。やがてひとりでオーケストラのような響きが出せるピアノに魅了される。

「子どものころから楽譜の書き方に興味があり、総譜など全体を見ることが好きでした。中学生のときにフーガの勉強を行い、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の中から第1曲を写譜し、作品の書き方を研究し分析しました」

 太田は2000年2月20日生まれ。20歳になったばかりだ。しかし、東京音楽大学付属高等学校を2年次で早期修了し、飛び級で東京音楽大学に入学。ここも今春3年次での早期卒業が決定し、いまは留学を視野に入れて新たな道を模索中だ。そんな彼女が「自分の弾きたいものを全開に」と語るリサイタルを行う。プログラムはそれぞれ思い入れのある作品を選んでいる。

「メンデルスゾーンはバッハのイメージと重なります。幻想曲を弾きたいと考え、シンプルな美しさを備えた『スコットランドソナタ』を選びました。私が親元を離れて上京し、初めて取り組んだ作品です。アルベニスの『タンゴ』は舞曲好きの私が大好きな作品で、ゴドフスキーの編曲により複雑で華やかさが増しています。リストの『《ノルマ》の回想』も弾きますが、リストは心の底から愛する作曲家。ベッリーニの歌劇《ノルマ》は初めて観たオペラで、とても深い感動を受けました。それをリストが編曲しているのがこのトランスクリプション。弾いていてゾクゾクし、幸せな気分になります。ラヴェルの『ラ・ヴァルス』も舞曲が好きな私のお気に入りの作品。今回、初めて挑戦します。華々しい美しさがありますね。ラヴェルでは『夜のガスパール』を弾いたことがありますが、その時代の詩を読みたいという気持ちが触発されます」

 いま、追加する曲目も考えているというから、より充実したプログラムになりそうだ。
「レパートリーの中心を近・現代とバロックに置いていますが、邦人作品も積極的に弾いていきたい。また、いまとても強く惹かれているのがブラームスの中期以降の作品です。ピアノ曲のみならず、室内楽を演奏したいのです。私は弦楽器にも管楽器にも興味があり、チェロやヴィオラを自分でも弾いてみたいと思っています。歌曲も好きで、R.シュトラウスに魅了されています。ピアノパートを弾きながら、この和声はベートーヴェンの『告別』ソナタと似ている、などと分析して楽しんでいます」
 まさに若き逸材。今後も目が離せない!
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2020年4月号より)

*新型コロナウィルス感染症の感染拡大を考慮し、本公演は延期となりました。(4/14主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

太田糸音 ピアノ・リサイタル 
2020.5/21(木)19:00 Hakuju Hall
問:オフィス諷雅 support@officefuga.jp 
https://www.officefuga.jp