SDGsをテーマに掲げ音楽祭のレゾンデートルをアピールする
音楽祭の根幹をなす重要な企画「ピノキオコンサート」
総監督にマルタ・アルゲリッチ、総合プロデューサーに伊藤京子と2人の女性ピアニストを軸に大分県で1998年から続いてきた別府アルゲリッチ音楽祭(公益財団法人アルゲリッチ芸術振興財団主催)。第22回の今年は「音楽とSDGs〜未来と出会うために」をテーマに掲げた。SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で2015年の国連サミットが採択、持続可能な世界を実現するための17ゴール、169ターゲットからなる。伊藤は意図について次のように語る。
「スポンサーの1社、日本生命保険相互会社を通じてSDGsを知り、アルゲリッチ財団は『質の高い教育をみんなに』など少なくとも6つ、目標を実践してきたことに気づきました。音楽祭を単なるイベントではなく、社会の中における芸術として残し、継続させる上でも大事な考え方です」
中でも教育プログラムの「ピノキオコンサート〜未来と出会うために」ついて、「どちらかといえば地味ですが、音楽祭の根幹をなす重要な企画です」と話す。今回は大分市平和市民公園能楽堂を会場に、アルゲリッチと伊藤自身のピアノデュオでドビュッシー「小組曲」やベートーヴェンの連弾作品を披露する予定(5/20)。これはすでに111回実施されている企画だが、音楽祭を誘致した当時の別府市長が亡くなり、後任が「クラシック音楽が何の足しになる」と異議を唱えたとき、伊藤はむしろ「なるほど、と思いました」と振り返る。
「私たち音楽を提供する側は、好きな人のためだけにやってきたのではないかと気づいたのです。『これからは大分県民、別府市民の多くに必要とされるものになろう』と考え、教育の可能性に目を向けスタートしたのがピノキオの前身、おたまじゃくしコンサートでした。自分たちなりに『クラシック音楽の役割って、こういうところにあるのですよ』と丁寧に説きながら、行政に切り落とされようと何だろうと、その土地の土壌の一部になることに専念したのです。高い塀を壊すことは無理でも、低くすることはできます。とりわけ『社会が壊れていく』と痛感する今、芸術が担う役割は重みを増しています。多様性の受容ひとつとっても様々なアプローチがあるなか、私たちは芸術の精神の側面から、質の高い教育活動を継続していく構えです」
人気の藤田真央も登場! 注目のオーケストラ・コンサート
別府市のビーコンプラザ・フィルハーモニアホールで行う「オーケストラ・コンサート〜巨匠がいざなう未来」にも、教育の視点がはっきりと示されている。指揮に若手のチョン・ミン、ピアノのソリストにアルゲリッチ、藤田真央を迎え、イタリア・ローマのサンタ・チェチーリア国立アカデミアとの交流協定締結記念で招聘するヴァイオリニストのウィリアム・チキートが東京音楽大学シンフォニーオーケストラのコンサートマスターを務める。第1回音楽祭でミンの父親ミョンフンが桐朋学園大学のオーケストラを指揮、アルゲリッチが独奏して以来の“伝統”だ。「オーケストラの形態をとれば一度に多くの青少年、音楽学生が巨匠クラスの指揮者、ソリストと共演して、その生き様を身近に体験できます。『実はこの中で、一番練習をしているのがアルゲリッチなのですよ』といい、音楽家としての根本姿勢を知ってもらいたいと思います」。
アルゲリッチは第1回でも弾いた十八番のプロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」、藤田はラフマニノフの「同第2番」を弾く予定。伊藤は「2019年のチャイコフスキー国際音楽コンクールのストリーミングを観て、予選段階で藤田の自然な音楽、演奏を楽しむ姿勢に魅了され」て、所属マネジメントに即電話を入れ、「優勝しなくてもいいから、来年のアルゲリッチ音楽祭に出演してください」と頼み、第2位獲得後の争奪戦とは無縁の段階で藤田の出演を決めた。「最近はベテランの出演が目立つので、旬のアーティストの出演は本当に貴重なんですよ」と笑う。私たちも、アルゲリッチが藤田の演奏やパーソナリティをどう評価するか、興味津々である。
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2020年4月号より)
*新型コロナウイルスの感染拡大防止を考慮し、第22回 別府アルゲリッチ音楽祭は延期となりました。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
第22回 別府アルゲリッチ音楽祭
2020.5/9(土)〜5/28(木) しいきアルゲリッチハウス、ビーコンプラザ、iichiko総合文化センター、平和市民公園能楽堂、東京オペラシティ コンサートホール、高崎芸術劇場 音楽ホール
問:アルゲリッチ芸術振興財団0977-27-2299 高崎芸術劇場027-321-3900(5/28のみ)
https://www.argerich-mf.jp