生誕250年という一大アニヴァーサリーを味わうには、こういう穏やかなアルバムもいい。マイスター・ミュージックによる名演奏家たちのベートーヴェン録音から、作品番号のない愛らしい初期作品から中期の傑作、後期の名品まで、工夫された選曲でアンソロジーが編まれた。2月に亡くなったサンティ指揮の交響曲の一部が聴けるのはうれしいし、シュヌアーのピアノや工藤重典のフルートなど、手堅い演奏陣も同レーベルならでは。冒頭と末尾に「エリーゼのために」を置き、末尾の方はフルートのオブリガート付きの編曲版というのもユニーク。楽聖の温和な横顔が浮かんでくる一枚。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2020年4月号より)
【information】
CD『月光 ベートーヴェン・アンソロジー』
ベートーヴェン:エリーゼのために、ピアノ・ソナタ第14番「月光」第1楽章、交響曲第5番「運命」第1楽章、同第8番第3楽章、フルート三重奏曲 ト長調 第3楽章 他
カール=アンドレアス・コリー フリードリヒ・ヴィルヘルム・シュヌアー(以上ピアノ)
工藤重典(フルート) 磯部周平(クラリネット) 岡崎耕治(ファゴット)
ネッロ・サンティ(指揮)
NHK交響楽団 他
マイスター・ミュージック
MMKK-7046 ¥2300+税