J:COM浦安音楽ホール 2020シーズン 主催公演ラインナップから

浦安でしか聴けないスペシャルな企画にフォーカス

扉の向こうは最高の居心地かつ最良の音響空間

すぐれたホールを訪れると、足を踏み入れた途端に心地よく、聴く前にして音の豊かさが伝わってくる。2017年4月にオープンしたJ:COM浦安音楽ホールはその典型だ。東京ディズニーランドの最寄駅であるJR京葉線の舞浜駅の隣で、JR武蔵野線も乗り入れる新浦安駅のほぼ真ん前で、少し歩けば上質な異空間があたたかく迎えてくれる。その瞬間の感動は、凝ったアトラクションを楽しんだとき以上でさえある。

このJ:COM浦安音楽ホールのコンサートホールは天井が高いシューボックス型で、壁面には木材が垂直にあしらわれ、整然とした美林のようでもある。上部は反響を意識した白壁で、その美しいマッチングゆえに、これから奏でられる音への期待が自ずと膨らむが、もちろん期待は裏切られない。楽器の音が明瞭に聴こえ、壁や天井に反響した豊かな間接音と相まって、全体として厚みのある響きに温かみが添えられる。

303席という、室内楽を楽しむのに願ってもない客席数で、13列の1階席、左右のバルコニー席と3列の2階席ほかがあり、音響面の穴はどこにもなく、死角もない。さらにはステージが比較的低いので、客席と演奏者との距離が近い。要するに、このホールは規模から音響、そして居心地までが理想的なのである。ほかに、201席で客席が可動式のハーモニーホールも備わることも添えておこう。

もっとも、上質なソフト、すなわち多彩で魅力的な公演が並んでいなければ、音楽ホールのすぐれた機能は活かされないが、2020シーズンの主催公演ラインナップを見ると、鬼に金棒とでも言えばいいだろうか。まさにJ:COM浦安音楽ホールでこそ聴きたいと思われる公演が並んでいる。

大谷康子が奏でるストラディヴァリウス

シーズン開幕を飾るのは、錦織健 テノール・リサイタル。「初恋」や「この道」「からたちの花」など心に沁みる日本歌曲に続き、モーツァルトからプッチーニ《トゥーランドット》の〈誰も寝てはならぬ〉までのオペラ・アリア、さらには「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」からクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」まで聴かせてくれる。のっけから贅沢である(4/18)。

続く大谷康子のヴァイオリン・リサイタルはさらに豪勢だ(4/26)。同ホールは、ストラディヴァリウスをはじめ世界最高クラスの弦楽器を数多く保有し、すぐれた演奏家や若手に貸与している日本音楽財団と事業連携している。そして、このリサイタルの演奏には、1725年製のストラディヴァリウスで、19世紀にドイツの著名な奏者アウグスト・ウィルヘルミが所有していた「ウィルヘルミ」が用いられるのだ。

エルガー「愛の挨拶」やヴィヴァルディ「四季」より「春」、生誕250年を迎えたベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」などで季節感が表されたのち、『ウェスト・サイド・ストーリー』から〈トゥナイト〉、ピアソラ「リベルタンゴ」、『南太平洋』から〈魅惑の宵〉など、世界を巡るようになじみ深い音楽を楽しめる。それは今年デビュー45周年を迎えた大谷のキャリアを巡る旅であるかのようだ。

東京都交響楽団の首席チェリストでもある古川展生がプロデュースする「スーパー・チェロ・アンサンブル」による六重奏も、ポップスや映画音楽にもおよぶ多彩な内容(6/26)。ほかにも新シーズンはソロからトリオ、クァルテットと、濃いラインナップが続く。交通至便な極上の空間での豊かな音楽体験。これを日常に組み込まなければもったいない。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2020年4月号より)

*新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、公演やイベントの延期・中止が相次いでおります。
掲載している公演の最新情報は、主催者のホームページなどでご確認ください。

【information】
問:J:COM浦安音楽ホール047-382-3035
https://www.urayasu-concerthall.jp
※2020シーズン ラインナップの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。