【CD】エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第3番、バルトーク:同第1番/戸田弥生&エル=バシャ

 文字通りの入魂の演奏である。東欧の民族色を湛えたモダンな2曲を、戸田弥生とエル=バシャのコンビが凄まじい集中力で弾き切った。「ルーマニアの民俗様式で」という副題の付いたエネスクのソナタはロマを想起させる節回しが特徴的だが、ヴァイオリンはフレーズの隅々に隠れた民衆のスピリットを余すところなく現前化する。ピアノが控えめなタッチでそれを包み込むと、歌心がきりっと立ってくる。激しく熱するフィナーレの勢いのまま、バルトークへと突入。情熱と瞑想をモダンなセンスで表現し、民族の精神を理知的に昇華したこのソナタの肝をがっちりと捕まえ、その本質へと肉薄していく。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年4月号より)

【information】
CD『エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第3番、バルトーク:同第1番/戸田弥生&エル=バシャ』

エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第3番「ルーマニアの民俗様式で」/バルトーク:ヴァイオリン・ソナタ第1番

戸田弥生(ヴァイオリン)
アブデル=ラーマン・エル=バシャ(ピアノ)

オクタヴィア・レコード
OVCL-00717 ¥3000+税