赤松林太郎(ピアノ)

“愛”のあるところに音楽は生まれる


 ピアニストの赤松林太郎は演奏に教育、さらには執筆と、常に世界を股にかけて活発な活動を展開している。いま最も忙しいピアニストのひとりといっても過言ではない。近年では定期的な自主コンサート開催に本腰を入れているが、2020年1月、赤松にとってクララ・シューマン国際コンクール第3位入賞から20年という節目の年に意欲的なプログラムのリサイタルを開催する。

「自主公演ではプログラムをとにかく練ります。色々と模索する中で、今回は“愛”をテーマにしたい、というところに行き着きました。そして私にとって大切な存在でもあるクララ・シューマンを取り囲む男性たちの作品を弾きたいなと思うようになっていったのです」

 クララは自作曲も残しているが、今回のプログラムには一曲も入っていない。これはなぜだったのだろう。
「もちろんクララも素晴らしい作品を遺していますが、やはり主軸はピアニスト。そして彼女の周りにいた人たちの書いた作品のもつ熱量がすごいですし、より共感もする。クララをめぐる愛の熱量が作品にいかにして変容していったか、というものを描きたかった。特に夫であるロベルト・シューマンの想いは特別ですね。彼の純粋なまっすぐさとロマンティシズムには、男性の多くが共感せずにいられないのではないでしょうか」

 今回はマーラーの交響曲第5番第4楽章〈アダージェット〉(O.ジンガー編曲)に、赤松自身の編曲による「少年の不思議な角笛」より〈美しいラッパが鳴りひびくところ〉も演奏される。
「マーラーはシューマンの精神的な後継者ともいえる存在です。彼の熱量もものすごいものがあります。私は子どもの時からオーケストラばかり聴いていましたし、歌曲の伴奏もよくしていました。マーラーの歌曲の伴奏は、シューマンの世界がさらに宇宙的に広がったものだと思います。その感覚をピアノ・ソロに置き換えたいと思いました」

 コンサートの最後を飾るのはベートーヴェンの後期の傑作、ピアノ・ソナタ第31番だ。こうしてプログラムを見ると全体に“歌”というものが根底にある作品が多く並ぶ。
「“歌”ということを最初から意識していたわけではありませんが、やはり“愛”は歌うものだと思います。だからこそ、今回のプログラムが生まれたのかもしれません」

 常に創意に溢れたテーマ性の強いリサイタルを開催してきた赤松。今回の公演はもちろんだが、これからも聴く者を魅了してやまないピアニズム、驚きと発見に満ちたプログラムで聴衆を楽しませてくれることだろう。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年12月号より)

クララ・シューマン国際ピアノコンクール受賞20周年
赤松林太郎 ピアノリサイタル 〜愛の主題〜
2020.1/17(金)19:00 王子ホール
問:東音企画03-3944-1581 
http://rintaro-akamatsu.com/