成田達輝(ヴァイオリン)

不可能と思える選曲を超えることで次の風景や目標が見えてくる

©Marco Borggreve

 ヴァイオリニストの成田達輝が、東京オペラシティの人気リサイタル・シリーズ「B→C(バッハからコンテンポラリーへ)」に登場していなかったとは驚きだ。登場するアーティストの演奏はもちろん、プロデューサー的な才能も楽しめるこのシリーズだが、音楽家として新しい段階へ進んだという彼が組んだのは、西洋音楽の長い歴史を俯瞰するようなプログラムである。

「もっとも古いのはボールドウィンという16〜17世紀を生きた作曲家で、新しいものが今回のために新作を委嘱したマロンドラというスペインの作曲家です。バッハ(無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番)の延長線上にファーニホウ(見えない色彩)があるという関係性も面白いですね。『見えない色彩』は音数がとても多く、その中から何が浮かび上がってくるかを感じる面白さや、大都会の人混みをすり抜けていくような感覚があって、お客様にもこの面白さを味わっていただきたいです」

 ファーニホウの師であるフーバーの遺作となった、詩的な響きをもつ「インタルシーミレ」(ロン=ティボー国際コンクールを受けた時の課題曲だったという)、ファーニホウの弟子であるマロンドラというつながりもあり、さながら作曲家のファミリーツリーを見るようでもある。

 14歳の頃にはシュトックハウゼンの「ヘリコプター弦楽四重奏曲」を目覚ましがわりにしていたほど、コンテンポラリー音楽が日常的だったという。そんな彼が札幌のジュニア・オケで出会い、音楽への視点を広げるきっかけになったのが、今回共演するヴァイオリニストの百留敬雄(ひゃくとめ・たかお)だ。だからこそ密度の高い演奏も期待できる。同一プログラムで札幌での凱旋公演が行われることも、2人にとって特別な意味をもつだろう。

「一方で作曲者自身がヴァイオリンを弾いていたパガニーニやヴィヴァルディ、エルンストは、ヴァイオリニストとしての自分をアピールできる曲ばかり。今回は自分にとって不可能とも思える選曲になりましたが、それを超えることで次の風景や目標が見えるとも思っています。喩えるなら、脱皮を続けてきて最後の一枚を脱ぎ捨てる瞬間が、今回の『B→C』かもしれません。コンテンポラリーに抵抗がある方も、いろいろな時代の音楽の中で受け止めれば新しい発見があります。そうした体験を楽しみにいらしてください」

 音楽家にとっても聴き手にとっても、発見のひとときになるであろうコンサート。未知の世界に触れる興奮を逃しませんように。
取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ2019年10月号より)

東京オペラシティ B→C 成田達輝 ヴァイオリン・リサイタル
2019.10/5(土)14:00 札幌コンサートホールKitara(小)
問:オフィス・ワン011-612-8696 
http://officeone.co.jp/

2019.10/8(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp/