ステファン・ポップ(テノール)

イタリアの主要歌劇場が奪い合う売れっ子テノールの十八番をいいとこ取り

Photo:Teatro Regio di Parma

 最近、イタリアの歌劇場が最も頼りにしているテノールで確実に三指に入るであろう、ルーマニア生まれのステファン・ポップ。ストレスなく湧き上がる豊かな声と、簡潔で流麗なフレージングで、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。すでに日本でも2017年に《ノルマ》でマリエッラ・デヴィーアを相手に、力強く品位あるポッリオーネを聴かせてくれたが、イタリアの歌劇場での主要公演も、私はポップに裏切られたことがない。そのポップがイタリア・オペラのナンバーによるツアーを行う。

 かつてパヴァロッティの声は、神が声帯に口づけした賜物だといわれたが、パヴァロッティに憧れるポップの才能も、選ばれしものだった。

「6歳か7歳のとき、小学校に音楽学校の先生が教えにきて、僕の両親に『息子さんは才能がある』と伝えたんです。それからピアノとヴァイオリンを勉強しましたが、10代後半で受けた1時間の歌のレッスンで、『君はオペラを勉強すべきだよ。次世代のパヴァロッティになれるから』と勧誘されて」

 こうして母国の北西部、クルジュ=ナポカの音楽学校に入学し、すぐに頭角を現した。

「2年後に《愛の妙薬》でデビューし、その後ローマ歌劇場のゼッフィレッリ演出《椿姫》で国際デビューし、大成功。2010年にはソウル国際音楽コンクールで優勝し、プラシド・ドミンゴ主催のコンクール(オペラリア)では聴衆賞ももらいました」

 たちまち主要劇場からオファーが殺到したが、野球のピッチャーの肩同様、売れっ子歌手も使い減りする。その点、ポップは賢かった。

「師匠のバス歌手から、昔はMETに船で行き、1回歌うと2、3日は休んだ、という話を聞いて、考え方が大きく変わりました。一時はイタリアのほかロンドン、パリ、モスクワと旅に次ぐ旅でしたが、余裕を持つべきだと。それで、北イタリアのパルマに家を買って引っ越し、勉強の時間も十分に確保するようにしたのです」

 加えて、音楽への向き合い方も真摯だ。

「指揮者のネッロ・サンティに『一音一音がテンポを作るのだ』と言われ、作曲家が楽譜に込めた意図を忠実に再現するために、そのことを強く意識しています。また、《トスカ》とか《ドン・カルロ》とか、もう少し声の成長を待ったほうがいい役は断っています」

 こうして声が維持され、音楽性は高まり、ますます売れっ子になっている、というのがポップを巡る現実だ。本場の歌劇場が求める旬の声、特別な才能に恵まれた歌手が磨き上げた表現。その十八番ばかりを「いいとこ取り」して日本で味わえる、しかもオーケストラとの共演(指揮はクリスティアン・サンドゥ)。豊かで幸福なチャンスである。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2019年10月号より)

ステファン・ポップ & 仲間たち オペラ・ガラ・コンサート・ジャパン・ツアー2019
2019.10/28(月)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
10/31(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
11/6(水)15:00 横浜みなとみらいホール

総合問:サルバベルカント オフィス080-1321-4130 
https://salvabelcanto.site/
※オーケストラは各日で異なります。共演歌手などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

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