斎藤雅広(ピアノ)

今蘇る、若き日の驚異の名演 そして、福山での国際音楽祭への出演

 学生時代に「藝大のホロヴィッツ」と称されたピアニストの斎藤雅広が取り組んでいるアーカイヴ録音の第3弾が登場した。若い時期の音源は劣化してしまうため、「せっかくだからCD化した方がいい」という助言を受けて始まったこのシリーズ。『1979年のリサイタル』『NHK放送録音』に続く『1983年のリサイタル』で、4月5日にイイノホールで収録されたライヴ。プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番、フランクの「前奏曲、コラールとフーガ」、リストの「ラ・カンパネラ」、ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」という重量級のプログラムである。

「僕たちは子どものころからリヒテル、ホロヴィッツ、ケンプ、ギレリス、ゼルキンら偉大なピアニストの演奏を聴いて育った世代です。特にフランスのコルトーとフランソワから大きな影響を受けて、それが自分のなかにしっかりと根付き、クラシックの王道というか正統的なスタイルを目指してきました。今回の24歳のときの演奏もその歩みを踏襲しています」

 斎藤の演奏はどっしりとして地に足の着いた特有のピアニズム。いずれも作曲家の魂に寄り添い、作品の内奥に深く切り込む。それは恩師のハリーナ・チェルニー=ステファンスカ(ポーランドを代表するショパン弾きとして知られ、49年のショパン・コンクールの優勝者)の教えも深く影響している。実際に彼女はコルトーの弟子でもあり、斎藤はコルトーの孫弟子にあたることになる。

「最近はフランスでもコルトーやフランソワを知らない人も多くなりましたが、僕は彼らのフランス流派の流れを汲んでいますし、クラシック本来の弾き方を大切に考えています。昔はプロコフィエフを弾くと、よく指が動くとか、よく速く弾けるねぇなどと、技術的なことばかりいわれましたが、こうしたアーカイヴ音源を聴いた若い人たちが表現力や解釈的なことなどを改めて評価して、プロコフィエフを“不安げな情緒感が出ている”などと言ってくれる。それがとてもうれしいですね」

 斎藤は演奏、編曲、トーク、伴奏などマルチな才能を備えたピアニスト。それが評価され、昨年「ばらのまち福山国際音楽祭」の第1回では総合司会も務めた。第2回の今年はソロ、室内楽の演奏でも力を尽くす。

「この音楽祭はお祭り騒ぎではなく、ヨーロッパの音楽祭のようにしっとりとして自然で、本当に音楽が好きな方々が聴きにきてくれます。毎年珍しいオーケストラも参加し、今年はハンガリーのジュール・フィルハーモニー管弦楽団と〈ラプソディ・イン・ブルー〉の共演もあります。2019年のチャイコフスキー・コンクールのヴァイオリン部門の優勝者、セルゲイ・ドガディンとのデュオなども予定しています」

 20世紀の巨匠たちを彷彿とさせる深々とした内容の濃いピアニズム。真のピアノ好きに愛されるその音楽を録音と音楽祭で心ゆくまで堪能したい。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年10月号より)

ばらのまち福山国際音楽祭
2019.10/10(木)〜10/13(日) リーデンローズ、神辺文化会館、沼隈サンパル 他
問:ばらのまち福山国際音楽祭実行委員会事務局084-928-1117
https://fukuyama-music-fes.jp/
※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

CD『斎藤雅広 1983年のリサイタル』
WWCC-7911 ¥2500+税
2019.10/25(金)発売