バロック音楽の新しいあり方を求める
フルートの上野星矢が2016年に結成した「東京バロックプレイヤーズ」(TBP)が、元イ・ムジチ合奏団のフェデリコ・アゴスティーニをメイン・ゲストに迎えて公演を行う。TBPのメンバーは古楽演奏にも通じた顔ぶれだが、基本的にはモダン楽器で演奏するグループ。
「今のところはそうですが、そこにこだわらないことを意識しています。練習はずっとバロック・ヴァイオリンで弾いて、本番の前日にモダンに変えたりしたことも。話し合いながら試行錯誤を重ねて、会場や曲目に最適と思われる編成で演奏したいと思っています」
上野自身は本来、バロック音楽はピリオド楽器、ピリオド奏法で演奏すべきだと考えていたそうで、留学したパリやミュンヘンではフラウト・トラヴェルソも学んだ。
「いまはTBPでは黒檀のモダン・フルートで吹いていますが、いつかいきなりトラヴェルソを吹くかもしれません」
その柔軟な考え方のヒントを与えてくれた一人がアゴスティーニだった。
「以前共演して、モダン楽器でもこんなふうにバロックを演奏できるんだと気づかされました。モダン楽器だと、どうしても音の強さでロマンティックに表現することが多いのが疑問だったのですが、フェデリコさんの演奏を聴いてそれがクリアになったんです。あくまで作品を表現する手段ですから、逆にスタイルに固執しすぎてしまうと、最終的に作品の良さにリーチすることが難しくなってしまうことがある」
「ザ・王道です」という今回のプログラムのメインは、各パート一人で演奏する「ブランデンブルク協奏曲第5番」。
「大編成で演奏するとチェンバロの華やかなソロ・パートが聴こえない。本来このぐらいの編成だったと思います。ヴァイオリンとフルートとの異なる音質を持つ楽器のソリスティックな対話。そして小編成なので、すべてのパートが浮き上がるような、バッハが隅々まで構築した、どこにも無駄のない音楽を楽しんでいただけると思います」
当日はモーツァルトのフルート四重奏曲ニ長調や、ルクレールの2本のヴァイオリンのためのソナタ ホ短調なども。ほかの時代の音楽を演奏するうえでも物差しにしているというバロック。現在の上野にとってTBPは活動のひとつの核だが、モダンのレパートリーとの「棲み分け」は考えていない。今年も11月にサントリーホールでソロ・リサイタルを開くが、そちらでも今後もバロックを演奏することもあるし、逆にTBPで現代曲を演奏することだってあるかもしれないという。思考はあくまで自由、柔軟だ。
「TBPは変幻自在、と思ってください」
新しい視点のバロック・アンサンブル。注目だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年9月号より)
東京バロックプレイヤーズ イタリアン・レジェンドとの出逢い
2019.9/17(火)19:00 王子ホール
問:目の眼03-6721-1152