森 麻季 ソプラノ・リサイタル 〜愛と平和への祈りをこめて Vol.9〜

美しきフランスの歌と平和への想い

C)Yuji Hori

 森麻季は現代らしい、しなやかなオペラ歌手なのだなあと思う。ロマン派の華やかなオペラのヒロインはもちろん、一時は専門の歌手たちの独壇場という観さえあったバロック・オペラでも、作品の時代にふさわしいスタイルと舌を巻くような技術で見事な歌を聴かせてくれる。まさになんでもこい。実に懐の深い歌手なのだ。昨年米国デビュー20年、さらに声楽を学んで30年というダブルの節目を迎えて、新たな一歩を踏み出した。夏の終わり、秋の始まりの恒例となっているリサイタル「愛と平和への祈りをこめて」が9回目を迎える。

 毎年9月の「祈り」には意味がある。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ。彼女はオペラ出演のためにワシントンにいて歴史的悲劇に遭遇した。その体験を胸に秘め、10年後の11年からスタートしたのが、このシリーズだ。だからまずは、私たち聴き手も、彼女のその思いに静かに寄り添いたい。そしてもちろん、歌姫は毎年新しい姿を見せてくれる。今年はフランス音楽特集だ。昨年2年ぶりにリリースした最新アルバムにも収録されてファンを狂喜させているフランス歌曲はもちろん、グノーやビゼー、マスネらのオペラ・アリアの匂い立つフランスの薫りを、彼女の丁寧な歌いぶりでたっぷりと楽しむことができる。長年共演を重ねているピアノの山岸茂人とともに、読売日本交響楽団コンサートマスターの長原幸太ら名手たちによる弦楽五重奏が、さらなる彩りを添えるのもうれしい。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年8月号より)

2019.9/13(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
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