アルテンブルク・ゲラ市立歌劇場を中心に欧州で活躍し、邦人初のドイツ宮廷歌手の称号を得て帰国。日本のオペラ界を担うバリトンが、R.シュトラウス歌曲の網羅的録音リリースの夢を叶えた2枚組。多くが後に妻となるパウリーネの歌唱を前提に作曲され、ソプラノ歌唱が一般的なこのドイツ歌曲最後の輝きに、思いがけない魅惑の視点が加わった。名高い〈献呈〉や〈あすの朝〉は甘美で官能的な旋律の世界はそのままに、よりプライベートな心の内面を露わにした“愛の詩”に高められている。円熟期を飾る〈ひどいお天気〉の叙景的な歌もよりリアルに心に迫ってくる。
文:東端哲也
(ぶらあぼ2019年8月号より)
【information】
CD『R.シュトラウス歌曲集/小森輝彦』
R.シュトラウス:献呈、忍耐、万霊節、帰郷、セレナード、ぼくの考えのすべて、あすの朝、黄昏のかなたの夢、ぼくは愛を抱く、愛の讃歌、ばらのリボン、君を愛す、解き放たれて、子守歌、さまよう心、みつけたものは、あなたの蒼い瞳で、星、ひどいお天気 他
小森輝彦(バリトン)
井出德彦(ピアノ)
日本アコースティックレコーズ
NARD-5065/6(2枚組) ¥4000+税