上岡&新日本フィルのブルックナー第2弾。ハース版以前の1927年に出されたヴェス版による珍しい演奏だ。だが版の問題(主として強弱や速度に相違があるという)以上に、表現自体が個性的。出だしのヴァイオリンの異様な弱音に驚かされた後は、異例なほどしなやかに進行し、ブルックナーの交響曲の中では前進的な曲でありながら、あてもなく逍遥しているような感覚におそわれる。5番で1つの形を極めた作曲者が、異なる方向性を企図したことを示す演奏ともいえようか。いずれにせよ、上岡ならではの看過できないブルックナー演奏であるのは間違いない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年8月号より)
【information】
SACD『ブルックナー:交響曲第6番/上岡敏之&新日本フィル』
ブルックナー:交響曲第6番(ヨーゼフ・ヴェナンティウス・フォン・ヴェス編纂による1927年版)
上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
収録:2018年4月、サントリーホール&横浜みなとみらいホール(ライヴ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00696 ¥3200+税