中村太地(ヴァイオリン)

ウィーン在住の若きヴァイオリニストがブラームスでデビュー!

C)Ai Ueda

「ブラームスは大好きな作曲家の一人です。このCDを聴いてくださった方が、何かのストーリーや美しい風景を思い浮かべて下されば嬉しいです。僕はソナタ『雨の歌』を弾く時、ペルチャッハの陽の光や木々の緑、湖などの景色を思い浮かべます」

 2017年秋、オーストリアの南、ケルンテン州ヴェルター湖畔のペルチャッハで開催された第24回ヨハネス・ブラームス国際コンクールで第1位に輝いた中村太地が、この7月にCD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集』で、満を持してメジャー・デビューを果たす。今も人気リゾート地のペルチャッハは、ブラームスが愛した避暑地のひとつ。交響曲第2番、ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」誕生の街として知られる。

 1990年北九州市出身。10代から知られた存在だった。「ブラームス」以外の国際コンクール受賞歴も豊富だが、中村はキャリアを急がなかった。

 ウィーンに住み、名伯楽ミヒャエル・フリッシェンシュラガー教授(サモヒル、メニューイン門下)からバッハ、ウィーン古典派、ドイツ・ロマン派のあり方を徹底的に学んだ。
「音色を付けるといったことには自信があるつもりで、小倉高校卒業後にウィーンへ行きましたが、先生はアーティキュレーションに厳しかった。最初のうち、バッハの無伴奏曲の数小節だけでレッスンが終わることもありました。僕は『日本語』で弾いていたようなのです。その時点でレパートリーとしていたソナタやコンチェルトも多かったのですが、先生のもとで学び直し、ザルツブルク、ウィーンの演奏スタイルを知ることもできたのです。レッスンはそれこそ週に何日も。素晴らしい時間でした」 

 去年からはオーギュスタン・デュメイの指導も仰ぐ。
「ソフィア・フィルとの共演でヨーロッパデビューし、最近はフィンランドのクフモ室内楽音楽祭でもよく弾いています。演奏家として、これまでとは全く別の視点を持つことも大切なのではと思い、ベルギーのデュメイ先生のところに通っています」

 今年4月には、川瀬賢太郎指揮九州交響楽団と福岡、北九州で共演。ショスタコーヴィチの協奏曲第1番で絶賛を博す。ハチャトゥリアンも十八番だが、デビューCDはブラームスのソナタ3曲! 9月、10月の北九州、東京、大阪でのリサイタルもバッハ、ベートーヴェンの「クロイツェル」、ブラームスの「雨の歌」。王道を行く選曲だ。しかも大ホールでの演奏が続く。

「CDと同じく、作曲家としての眼差しも素敵な江口玲さんとの共演です。ギル・シャハムのリサイタルの伴奏で楽友協会によく来られていた頃からのファンです。

 CDも秋のリサイタルも、ウィーンで学んだ、思い入れのある曲ばかりです。好きなソナタばかり。音楽の色や香りも味わっていただければ」
 本物誕生だ。
取材・文:奥田佳道
(ぶらあぼ2019年7月号より)

3大Bプロジェクト 中村太地 ヴァイオリン・リサイタル
2019.9/23(月・祝)14:00 北九州市立響ホール
9/29(日)14:00 サントリーホール
10/5(土)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
問:テレビマンユニオン03-6418-8617
http://www.tvumd.com/

CD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ集』
ビクター・エンタテインメント
VICC-60956 ¥3000+税
2019.7/3(水)発売