「オルゲルビュッヒライン(オルガン小曲集)」は1713年頃、バッハが20代で編纂を始めたコラール前奏曲集。教会暦に沿った全46曲は、作曲家が転職をにらんで自己アピールを狙った、渾身の作との説も。実際に、創意工夫が随所に凝らされて、内容は濃密にもかかわらず、“讃美歌集”と地味に捉えられがち。しかし、バッハ時代から残る最大級の銘器を自在に操る気鋭の名手、塚谷水無子の手にかかれば、たちまち瑞々しい色彩に包まれる。しかも一曲ごとに、全く異なる色合いを纏って。さらに、彼女は伝承史にも目配りし、礼拝で作品を耳にした往時の人々の、喜怒哀楽や息遣いまで掬い取らんとするよう。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年5月号より)
【Information】
CD『バッハ:オルゲルビュッヒライン/塚谷水無子』
J.S.バッハ:オルゲルビュッヒライン BWV599-644
塚谷水無子(オルガン)
Pooh’s Hoop
PCD-1810 ¥オープン