連弾作品はシューベルトの作品の中でも重要な位置を占めるものであるにも関わらず、作品の音楽的な特徴、込められた意味といったものを筆者は見過ごしていた。特にこれだけ緻密に対位法が駆使されていたということには非常に驚かされた。また、フォルテピアノだからこそできる表現というものも、山名夫妻の演奏を聴くことで納得である。動機の関連性、構造の美しさが、こだわった音色の重なり合い、やりとりによって鮮やかに表現されている。特に名曲「幻想曲へ短調D940」は、構築美が明瞭に示されることで、作品に込められたシューベルトの苦悩が一層鮮やかに伝わってきた。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年5月号より)
【Information】
CD『シューベルト:フォルテピアノによる4手連弾作品全集 第1巻 エキゾティシズムと対位法/山名敏之・山名朋子』
シューベルト:ハンガリー風ディヴェルティスマンD818、6つのポロネーズD824より、英雄的大行進曲D885、創作主題による8つの変奏曲D813、幻想曲D940、幻想曲(大ソナタ)D48、フーガD952 他
山名敏之 山名朋子(以上フォルテピアノ)
コジマ録音
ALCD-9192,9193(2枚組) ¥3400+税