ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル

ピアニスト人生の節目を彩ってきた変奏曲にいま再び対峙する

C)Simon Fowler

 知的な顔立ちそのままに安定感のある演奏で多くの聴衆を魅了してきたピョートル・アンデルシェフスキ。デビュー当時まだあどけなさの残る20歳そこそこだった青年も、今年で50歳を迎える。節目の年のツアーに彼がメインに選んだのが、ベートーヴェンの「ディアベリ変奏曲」だ。

 実はこれ、アンデルシェフスキのキャリアにとって切っても切れない曲だ。「ディアベリ」はベートーヴェンの後期作品の中でもとりわけ謎めいた曲だが、彼は1990年のリーズ国際コンクール予選で、いきなり同作品を選び話題を呼んだ(本選は棄権)。2000年にエラートと専属契約を結び最初に録音したのも「ディアベリ」で、数々の賞に輝いた。この時、名監督ブルーノ・モンサンジョンと組んだ最初のドキュメンタリー映画も作っている。まさに勝負曲なのである。

「ディアベリ」の何が彼のピアニスト魂を刺激するのだろうか?
 楽譜出版業を営んでいたディアベリの作った主題は、いわゆる通常のメロディーと伴奏という形ではなく、小さな動機の組み合わせのようになっている。この主題をベートーヴェンは細部を拡大したり、変容させたりと徹底的に分解・敷衍し、1時間近くもかかる33の変奏曲を書き上げた。変奏の概念を根底から覆したのである。

 若きアンデルシェフスキは主題の痕跡を追い、要素がどこに隠れ、どう加工されているかを分析することに熱中したのだろう。作曲時ベートーヴェンは50代前半だったが、その年代にさしかかったアンデルシェフスキは、今、何を思い、その指先はどんな「ディアベリ」を紡ぎだすのだろうか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年4月号より)

トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ
ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル
2019.6/4(火)19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 
https://www.triphony.com/