子供の日常を温かい目で描写した「子供と叔父さん」(1916)の楽譜表紙絵を用いたジャケットに導かれ、大正時代にタイムスリップ。すると聖歌やショパン、さらにはドビュッシーやスクリャービンに至る語法を貪欲に消化しながら、日本的な独自性をミックスし新しい器楽の世界を切り開こうとした山田耕筰の試みの同時代性が、鮮やかに浮かび上がってきた。それにしても、誰もが知っている作曲家のピアノ曲、しかもこのアルバムの「源氏楽帖」のように音楽的にも意味のある作品が、多数録音されないままだったのは驚きだ。演奏も自筆譜や異版を可能な限り精査し、作品像を過不足なく伝えている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年12月号より)
【information】
CD『山田耕筰ピアノ作品集「子供と叔父さん(おったん)」/杉浦菜々子』
山田耕筰:狐の踊り、秋の日のメロディ、子供と叔父さん(おったん)、聖福1&2、源氏
楽帖、ソナチネ、日本風の影絵、牧神序曲、ポエム、ピアノのための「からたちの花」、前奏曲「聖福」、春夢 他
杉浦菜々子(ピアノ)
ディスククラシカジャパン
DCJA-21041 ¥2500+税