ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

巨大かつ精密な作品をダイレクトに体感する


 東響12月のサントリー定期&川崎名曲全集は、ジョナサン・ノットらしいトリッキーなプログラミングだ。
 前半はフランス印象主義から出発しつつ、渡米後は超硬派な作風に転じ、戦後の前衛を先取りしたエドガー・ヴァレーズの2曲。まずフルートの材質であるプラチナの比重をタイトルにした独奏曲「密度21.5」を東響首席・甲藤さちのソロで。この曲は、キーをパタパタ鳴らす音や、およそ美音とはいえない超高音域の使用など、現在はポピュラーになっている奏法を用い、フルートの概念を拡張したことで知られる。続く「アメリカ」もアルト・フルートの呪術的な主題で始まるが、そのテーマは夜のしじまを破る禍々しいサイレンの音と共に5管編成の巨大なオーケストラへと瞬く間に燃え広がる。打楽器アンサンブルが都会の喧騒を呼び起こし、強烈な不協和音が次々に炸裂する様は、ぶつかりあう起重機、蒸気を噴き上げる溶鉱炉のように壮観かつ非情だ。
 前半を戦後音楽の先駆と位置付けるなら、1899年に初演されたR.シュトラウスの「英雄の生涯」は19世紀音楽の総決算となろうか。こちらも4管編成のオケが縦横無尽に絡まり合い、愛、戦い、回想、死というドラマを活写していく。所々で聴かれるチャーミングなヴァイオリン・ソロも、ハード・ボイルドな前半のフルート・ソロと対比的だ。
 ノットは現代もののスペシャリストとしても知られるし、最近の東響は音楽を緻密に仕上げる力に一層の磨きがかかっている。巨大で複雑な作品をすっきりと聴かせることにかけて、これ以上のコンビはないのではないか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年12月号より)

第666回定期演奏会 
2018.12/15(土)18:00 サントリーホール
名曲全集 第143回〈後期〉 
2018.12/16(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp/