声と言葉を操る波多野の表現が深く美しい。詩人・時里が台本を書き下ろした「納戸の夢〜」の創作にあたって、波多野は高橋に「レチタティーヴォ(しゃべり)とアリア(歌)の間で、声が行き来するような曲を」と依頼したという。波多野は上演形態から「モノオペラ」と称しているが、高橋と時里は、おそらくは音と言葉の関係をオペラに対置して、「反オペラ」と呼んでいる。言葉はそれ自身の音、そして楽器の音とも自由に戯れる。その語りと歌のたゆたいをさらにつきつめたのが「鳥のカタコト〜」で、こちらは継続中の「名井島」シリーズからの6つの詩による。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年6月号より)
【information】
CD『風ぐるま2《鳥のカタコト 島のコトカタ》/波多野睦美&栃尾克樹&高橋悠治』
高橋悠治(詩:時里二郎):納戸の夢 あるいは 夢のもつれ(2010/16改訂)、鳥のカタコト 島のコトカタ(2016)
波多野睦美(声)
栃尾克樹(バリトン・サクソフォン)
高橋悠治(ピアノ)
Pau Records
PAU-8002 ¥2593+税