開幕まであと少し! 東京・春・音楽祭—東京のオペラの森2018—

今年で14回目を迎える「東京・春・音楽祭」が、春の訪れとともに上野エリアで開催される。今回もバラエティに富んだ公演がたくさんあり、目移りばかりしてしまうかもしれない。この特集では、決して聴き逃すことができない注目公演ばかりをナビゲート。ぜひ音楽祭を愉しむガイドとしてご活用ください。

没後150年を迎えるロッシーニに光を当てる

 旬のアーティストでオペラや合唱など歌ものを楽しめるのは東京・春・音楽祭の大きな魅力の一つ。今年は没後150年を迎えるロッシーニにスポットを当てている。《セヴィリアの理髪師》以外の作品も次第に取り上げられるようにはなっているが、これだけまとまって演奏される機会は珍しいし、創作の全体像や同時代への影響を押さえてあるのもうれしい。

左より:レナート・バルサドンナ/スペランツァ・スカップッチ/エヴァ・メイ

 「スプリング・ガラ・コンサート」(3/28 東京文化会館大ホール)では、ロッシーニをはじめとするイタリア・オペラの名曲で春をことほぐ。今年、精鋭からなる東京春祭特別オーケストラを指揮するのはレナート・バルサドンナ。長らく合唱指揮者としてロイヤル・オペラをはじめとする名門歌劇場を支えてきたが、近年はオーケストラやオペラなどの指揮者としても急速に名声を高めている。2015年東京春祭のベルリオーズ「レクイエム」では合唱指揮者として参画したが、今年は熟練の音楽づくりを指揮台からダイレクトに披露してくれる。演奏者の解釈にゆだねられる余地の大きいイタリア・オペラだからこそ、ツボを押さえて魅力を存分に引き出してくれるだろう。
 フェスティバルのクロージングにあたる4月15日には、モーツァルト「交響曲第25番」のあと、宗教音楽の傑作「スターバト・マーテル(悲しみの聖母)」が取り上げられる(東京文化会館大ホール)。人生の半ばで早々に筆を折り、年金生活者として美食三昧の生活を送っていたロッシーニだが、隠退生活の中で書かれたこの曲は、軽快なオペラ・ブッファの作曲家というイメージとは裏腹に、深い宗教的情感が表れている。昨年のガラ・コンサートを躍動感あふれるリードで沸かせたイタリアの若手女流指揮者スペランツァ・スカップッチが、ドラマティックな大作をどう料理するかが見もの。エヴァ・メイ(ソプラノ)をはじめ歌唱陣も豪華だ。
 「ロッシーニとその時代」(3/25 東京文化会館小ホール)では「混乱の世を生き抜く知恵と音楽」と題して、ロッシーニと同時代の作曲家の音楽を5部にわたり多彩な切り口からプログラミングしたマラソン・コンサートが行われる(企画構成・お話:小宮正安)。興行師と出会いオペラ作曲家として大成、パリに旋風を巻き起こす過程をたどるとともに、《ウィリアム・テル》競作聴き比べ、隠退生活にうかがうその世界観など、時代に切り込むテーマ設定には興味が尽きない。実演ではなかなかお目にかかれない珍曲が並んでいるのもポイントだ。

東京春祭ならではの個性的なシリーズ

 ロッシーニに限らず、東京春祭では特定の作曲家にフォーカスしてその魅力を継続的・多面的に紹介する企画がすでに複数走っている。3月19日には「ベンジャミン・ブリテンの世界〜20世紀英国を生きた、才知溢れる作曲家の肖像」(企画構成:加藤昌則、全5回)の第2回が催される(上野学園石橋メモリアルホール)。近代的なセンスと透明感あふれるテクスチュアが魅力の弦楽四重奏曲第2番。第二次世界大戦時のイギリスへの夜間空襲を描いた「カンティクル第3番『なお雨が降る』」、テニスン、キーツ、ブレイクといったイギリスの詩人に付曲した「セレナード」では、独唱に加えホルンが活躍するのも聴きどころ。テノールにはブリテンをライフワークとし二期会でも活躍する鈴木准が、ホルンにはN響首席の福川伸陽が登場する。

左:鈴木 准
右;福川伸陽 C)大津智之

 「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.5」(3/21 上野学園石橋メモリアルホール)では「ルーマニアン・ラプソディ」というテーマで、作曲だけでなくヴァイオリンに、ピアノにとマルチに活躍したジョルジェ・エネスクをフィーチャーする。ジプシー・ヴァイオリンの気分を漂わせながら熱狂へと高まる「ルーマニア狂詩曲第1番」は、彼のもっとも知られた作品。ヴァイオリンの小林美恵はこの日演奏される「ヴァイオリン・ソナタ第3番」を録音もしており、最適の人選だ(ピアノ:寺嶋陸也)。未だ知られざる作曲家の横顔を解説してくれるのは、東欧民族音楽の権威・伊東信宏。
 「東京春祭のStravinsky vol.6」(4/7 東京藝術大学奏楽堂)では、バレエ・リュス時代の大傑作「ペトルーシュカ」、「春の祭典」がピアノ4手版でいよいよお目見えする。グロテスクな人形劇や異教の残酷な踊りは、ピアノへと凝縮されることでその音楽エッセンスを露わにする。高橋礼恵とビョルン・レーマンはともにベルリン在住。彼らが録音した「春の祭典」も、呪術的なメロディがメカニックで力強いパルスに変貌する様を克明にとらえているが、今回はそのスリリングな演奏を生で味わってほしい。
左:小林美恵 C)武藤 章
右:高橋礼恵&ビョルン・レーマン C)Uwe Arens

ミュージアム、そしてキャバレー……特別な場所で聴くコンサート

 歴史的な美術館や博物館で催されるコンサートは東京春祭ならではのユニークな企画。出演者もベテランから伸び盛りまで多彩だ。フェスティバル期間には「ブリューゲル展」(東京都美術館)、「プラド美術館展」(国立西洋美術館)と話題の展覧会も重なるが、展覧会会場での多彩なコンサートとあわせて鑑賞すれば、理解と感興が深まることは必定。ほかにも恒例の「東博でバッハ」シリーズでは野平一郎がバッハ作品に加え自作の新曲を披露(3/17 東京国立博物館)、国立科学博物館ではフルート界のライジング・スター上野星矢が、ギター伴奏(松本大樹)とともにファリャやピアソラなどラテン系プロを取り上げる(3/22)。

昨年のミュージアム・コンサートより
C)東京・春・音楽祭実行委員会/飯田耕治

 国立科学博物館の展示物を背景に行われる〈ナイトミュージアム〉コンサート(3/15)は東京春祭のプレ・イベントという位置づけだが、箏やクラリネット、グラスハープなど多彩な楽器による演奏の間に、植物の研究者・岩科司と天文の研究者・西城恵一によるスペシャル・トークが挟まれる。夜の博物館で繰り広げられる美と知の饗宴に浸るひととき。
昨年の〈ナイトミュージアム〉コンサートより
C)東京・春・音楽祭実行委員会/飯田耕治

 21時30分からスタートする「東京春祭NIGHT」(4/6 東京キネマ倶楽部)は「Cabaret(キャバレー)を巡る物語」と題し、ソプラノの中嶋彰子らが黄金の1920年代のキャバレーの世界を再現する。会場はグランドキャバレーとして使われたスペースを大正時代の雰囲気に再現した東京キネマ倶楽部。夜のとばりにまぎれ、時空を超えたタイムスリップを愉しもうという趣向だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年3月号より)
東京キネマ倶楽部
C)東京・春・音楽祭実行委員会/飯田耕治

東京・春・音楽祭ー東京のオペラの森 2018ー
2018.3/16(金)〜4/15(日)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、上野学園 石橋メモリアルホール、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館、東京キネマ倶楽部 他
問:東京・春・音楽祭実行委員会03-6379-5899
http://www.tokyo-harusai.com/