ベッリーニの音楽は、歌手にとっての試金石。ひとたび楽譜を広げたならば、それはそれは難しいフレーズが次から次へとやってきて、息つくひまもないのだから。この作曲家は二つの基本理念を打ち出す。「音と音をどこまで肌理細やかに繋げるか」「どこまで長く息を保てるか」というもの。こうした地道な取り組みこそ実は一番難しい。あのマリア・カラスもベッリーニを好んだが、その背景には、「ベッリーニで成功できる自分」を誇るという一流のプロ意識が存在した。
それだけに、この3月、ベッリーニの最高傑作《ノルマ》を東京二期会が取り上げるというニュースが話題となっている。それはいわば、「選びに選び抜いたキャスティングです」といった決意の表れにほかならぬもの。今回は、映像を付したセミ・ステージ形式での上演だが、紀元前のガリアを舞台に、巫女ノルマが三角関係に翻弄されるといったクラシックな物語だからこそ、映像のシンボリックな効果も発揮できるのだろう。
指揮者はイタリアの俊英リッカルド・フリッツァ。きびきびとした棒捌きで人気のマエストロである。ノルマ役は二期会が誇るソプラノ、大村博美と大隅智佳子。太く豊かな声音の大村、毅然とした響きの大隅と、どちらも実力派である。武将ポリオーネ役では、新進テノールの城宏憲とスター樋口達哉が美声を競い、若い巫女アダルジーザ役は清々しいメゾの小泉詠子と富岡明子が競演。全力投球の熱演ぶりに期待したい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年3月号より)
2018.3/17(土)17:00、3/18(日)14:00
Bunkamuraオーチャードホール
問:二期会チケットセンター03-3796-1831
Bunkamuraチケットセンター03-3477-9999
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