戦争と芸術の狭間で
1945年3月10日、米軍の大空襲により灰燼となり、夥しい犠牲者を出した東京・下町。ここに立地する、すみだトリフォニーホールが1997年の開館以来続けている「すみだ平和祈念コンサート」。20周年を迎えた今年度は6公演が行われる。パリを拠点とするソプラノの秦茂子と、社会的背景に基づく活動を軸とするフランスの器楽グループ「アンサンブル・カリオペ」は第一次世界大戦中に創作された作品を特集するコンサートを開く。
福島県出身の秦は、国立音大や昭和音大大学院を経て、パリ国立高等音楽院に学び、在学中に同音楽院でオペラデビュー、その後、パリやエクサンプロヴァンスなどの檜舞台で活躍。古典の宗教声楽作品のほか、パリの先鋭的なグループと共演を重ねるなど、近現代音楽も得意とする。一方の「アンサンブル・カリオペ」は、古典作品だけでなく、19世紀以降の作品を、歴史や社会背景を採り込んだ形で、時に戦争の遺物が展示された博物館などでも披露し、大きな反響を得ている。
ステージは、作曲者自身による歌詞を含め、直接的な反戦の思いが込められたドビュッシー「家なき子等のクリスマス」でスタート。ラヴェル、フォーレ、カプレ、リリ・ブランジェらフランスをはじめ、R.シュトラウスやバルトーク、ストラヴィンスキー、さらには日本の中山晋平まで、世界各国の作曲家たちが初の世界大戦の悲劇を目の当たりにしつつ、同時期にしたためた歌曲の数々から、その思いを辿る。人類にとって、最大の愚行である戦争、そして至高の芸術である音楽。その狭間に、現代の私たちは何を感じるのか。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2018年3月号より)
2018.3/1(木)19:00 すみだトリフォニーホール(小)
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
http://www.triphony.com/