往年の巨匠たちが愛したピアノで奏でるロシアの名曲
「遺産と呼ぶに相応しい傑作がこの世には多く、自分でも収拾がつかないほど弾きたい曲もたくさんあります。リサイタルのテーマを『世界音楽遺産』としてシリーズ化することで、明快なコンセプトでまとめていけると考え、この企画をスタートさせました」
幅広いレパートリーを持つピアニスト、松本和将の「世界音楽遺産」。昨年のドイツ・オーストリア編に続いて第2回はロシア編と銘打った。サブタイトルは「恐るべき底なしの響き」。ロシア音楽の魅力を見事に示す副題だ。
「ロシア音楽にはどこまでも深い響きがあります。個人的にもっともロシアを感じさせてくれる作曲家はラフマニノフです。延々と沈み込んでいく響き。喜びも明るさもあるけれど、常に雲がたれ込めている。あの音楽美にこそ、ロシアの魅力を感じますね」
そのラフマニノフがカーネギーホールで愛奏したと言われるピアノ、ニューヨーク・スタインウェイCD368を用いてリサイタルは行われる。ラフマニノフの名曲、前奏曲「鐘」で幕開けし、延々と歌い続けるような「ヴォカリーズ」が続く。ロシアといえば欠かせないチャイコフスキーの作品は、「四季」の中でも明るく祝祭的な3曲(7月・11月・4月)を取り上げる。スクリャービンの作品からはソナタの5番を選んだ。神秘和音により独自の世界を切り開いた傑作だ。
「スクリャービンの音楽は、突き抜けた世界を緻密にまとめあげていくところがあまりに面白く、弾いていてニヤリとしてしまいます(笑)。彼の世界観では宇宙と人間の体内とが一体化しています。こう説明すると分かりにくいですが、音楽になると伝わりやすくなるから不思議です」
後半はムソルグスキーの「展覧会の絵」。これまで17枚のCDをリリースしてきた松本が、3枚目のアルバムで録音した作品だ。
「若い頃は、ラヴェルのオーケストラ版の呪縛から逃れられなかったのが、最近ようやく抜け出せました。冒頭のプロムナードはトランペットの音色をイメージしなくてもいいはず。今は具体的な楽器の音色にこだわらずに、自由に全体的な響きを感じ取るようにしています」
自分の考えを「言葉や文章でも伝えたい」と語る松本は、公演1ヵ月前には曲目についてのプレレクチャー(10/25 タカギクラヴィア松濤サロン 要申込)を行う。また自らの「本番でしか出せないテンション」を強みと捉え、ライヴ録音を行う予定だ。レクチャー、本番、ライヴ録音CDと、3段階で楽しめる“世界遺産”に注目だ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2017年11月号より)
松本和将の世界音楽遺産 シリーズ第2回 ロシア編〜恐るべき底なしの響き〜
2017.11/26(日)14:00 東京文化会館(小)
問:タッシ・アーツ・チケッツ!050-1278-6816
http://www.kaz-matsumoto.com/
他公演(同プログラム)
2017.12/23(土・祝)サザンクロスホール(宇都宮市立南図書館内)
(松本和将さんのピアノを聴く会 事務局028-645-1904)