小林研一郎(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

この上なくドラマティックなチャイコフスキー

 チャイコフスキーといえば、コバケンこと小林研一郎の十八番中の十八番。しかし「マンフレッド」交響曲を取り上げる機会(そもそも同曲の生演奏自体)は滅多にない。それが3月の日本フィル定期で実現する。長く親密な関係にある桂冠名誉指揮者コバケン&同楽団においても24年ぶりというから貴重だ。
 本作は、過去の罪にさいなまれ、魔女から妖術の伝授を受けて解放を願うマンフレッドが、アルプス山中をさまよった末、かつての恋人の亡霊に出会って死を迎える…といったバイロンの劇詩に基づく音画的な交響曲。最大の魅力はチャイコフスキーの見事な管弦楽法で、交響曲第4番と第5番の間の作だけにその筆致は成熟度が高く、オルガンも用いた多彩なサウンドは、生演奏でより真価が発揮される。コバケンは、ロンドン・フィルを指揮した最新のチャイコフスキー交響曲全集の一環として2014年に録音。あらゆるフレーズを意味深く語らせた雄弁な演奏を展開し、壮大なドラマを創出している。それゆえ今回のライヴへの期待は、限りなく大きい。
 前半はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。1989年日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれた金子三勇士がソロを弾く。ハンガリーで学び、2008年バルトーク国際ピアノコンクール等で優勝後、内外で活躍するこの俊英は、ハンガリー繋がりと相まってコバケンの信頼も厚く、演奏はやはり力強くパッショネイト。幾多の共演を重ねたマエストロ&日本フィルともども、熱い音楽を聴かせてくれるに違いない。
 ここは、濃厚なチャイコフスキーにどっぷりと浸ろう!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ 2017年2月号から)

第688回 東京定期演奏会
3/3(金)19:00、3/4(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp/