日生劇場のオペラの快進撃が続いている。昨年の《セビリアの理髪師》と《後宮からの逃走》で、熱心なファンのみならず、“オペラ初体験”の少年少女たちも大いに楽しませたからである。客席の筆者も、若者たちの歓声や溜息を目の当たりにして嬉しくなった。その成功の源は、やはり、「内容を分かりやすく伝えたい」と願う作り手側─演出家を代表格に─の高い志。曖昧な表現を排し、「誰が何を、何のためにやっているシーンか」を明確にすることで、観客が物語をありのままに受けとめるよう、自然に導いたのである。舞台の出演者勢も、ピット内の指揮者&管弦楽団も、ドラマを分かち合いたいという思いで一丸となっていた。
さて、この日生劇場が来る6月に取り上げるのは、近代イタリア・オペラの傑作、プッチーニの《ラ・ボエーム》である。内容は19世紀パリの下町に暮らす若者たちの青春群像劇だが、今回特に注目されるのは、日本語訳詞(宮本益光の新訳)で歌われること。言葉が瞬時に理解されたなら客席もより活気づくし、登場人物たちの一挙手一投足も観る人の強い共感を呼び起こすに違いない。また、今回のキャスティングも目を惹くものに。ソプラノの砂川涼子、テノールの樋口達哉といった人気の名歌手を中心に、バリトンの大山大輔、桝貴志を始め中堅・新星の実力派が賑やかに集う。指揮はイタリア・オペラの若き権威たる園田隆一郎、演出は新進気鋭の伊香修吾。管弦楽は新日本フィルハーモニー交響楽団。情熱たっぷりの熱演に期待したい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ 2017年2月号から)
6/18(日)、6/24(土)各日13:30 日生劇場
問:日生劇場03-3503-3111
http://www.nissaytheatre.or.jp/
2/1(水)発売