まもなく開幕〜新国立劇場バレエ団2016/17新制作『ロメオとジュリエット』

 新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』が10月29日(土)に初日を迎える。これに先立ち大原永子芸術監督が見守るなか公開リハーサルが行われ、主役をつとめる小野絢子&福岡雄大が第1幕のバルコニーのシーンを、米沢唯&井澤駿が第3幕の寝室のシーンを披露、公演への意気込み等を語った。
(2016.9.29 新国立劇場リハーサル室 Photo:M.Terashi/TokyoMDE)


●公演への意気込み
大原:ドラマティックな演技力、バレエのテクニックを通じて感情を出すというドラマティックバレエを重要視している。私自身がドラマティックバレエに出会ったときに、3回、5回まわる、というのとは違った満足感を得た。ここにいるプリンシパルたちも人間的にもだんだんと成長してきていて、ただ技術で回ることだけじゃないものに挑戦する良い年頃だと思う。
 『ロメオとジュリエット』(以下『ロメオ』)は演劇にしても何にしても有名な作品で、皆が知っているし、マクミランの『ロメオ』は大作で、それに挑戦するということは大事。『ロメオ』は多くの出演者のなかでも、初めから最後まで苦労しているのが主役の二人。ロメオは踊りと演技を同時にやっていかなければいけないし、ジュリエットは特に第3幕、演技力が必要とされます。体力的にも精神的にも大役であり大変な役。これは何回も経験した方がいいし、『ロメオ』はバレエ団にとっても、いま成熟した良い時期のダンサーにとっても良い作品だと思う。皆さんを号泣させられるようなドラマティックなものにできればいいなと思っています。

小野:カンパニーに入ってそろそろ10年になり、成長しているのか自分で自覚はないのですが、ドラマティックな役も、むちゃぶりなんじゃないかと思う役も、いろんな経験をさせていただきました。今回2度目となる『ロメオ』を踊るにあたり、いままでの経験をださなければいけないのですが、先生の情熱に応えられるように頑張って練習します。

福岡:これから技術面、演技面もこまかく練習して、また体力をつけて望みたいと思います。バレエ団の皆がとても頑張っているので、良い舞台になると思います。

米沢:リハーサルが始まってから井澤君と「本当にできるのだろうか」という会話を何度もしています。本番にむけて全力をつくし、技術はもちろん、内からでるものがはたして自分にあるのだろうかと自問自答しながら、いま苦しんで稽古しています。大原先生の愛のある厳しい指導に答えながら、「舞台の上で生ききる」ということができるよう頑張りたいです。

井澤:『ロメオ』を踊る経験が今回初めてなので、すごく勉強になっています。できないところもまだあるのですが、本番までに自分のものにできるよう努力していきます。

●ドラマティックならではの面白さ
小野:純粋にドラマティックなバレエが大好き。『ロメオ』も小さい頃からビデオで名作と言われるプロダクションのものを観ていますが、アレッサンドラ・フェリさんとウェイン・イーグリングのものが大好きで、何回も観ているような作品です。やってみて思うことは、もちろんやりがいもあり楽しいのですが、さきほど米沢さんも言っていたように、「生ききる」ということがすごく必要な役なので、終わった後に生命力が消耗するんです。これを経験すると次にみえてくるものがあり、私にとってはとてもはまってしまうバレエの種類です。

福岡:バレエ自体難しいといつも言っているのですが、自分自身はドラマティックバレエだからと特別視している訳ではありません。『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』と違い、『ロメオ』で僕が教えてもらったことは、もっとナチュラルに、ということ。手を出すときに、何か言葉がないなら出すなと言われました。(ナチュラルに演技してくれと指導を受けたので、いまそういう指導は僕の中ではあまりないのですが、)目で話すというごくありふれた自然な演技のなかで、お客様に魅せなければいけないので、そこがマクミランさんの『ロメオ』と他のバレエと違いかなと思います。

米沢:他のクラシックバレエは人間を超えたものを表現することが多く、トゥシューズを履いても重心を高く、まるで重力がないかのように舞います。お姫様にしろ何にしろバレリーナが美しいということが大前提としてあるのですが、そこを壊して、人の身体の重み、血とか肉というものが観客に伝わる、そういう作品だなと踊りながら思っています。切ったら血が出るような生々しい人間を表現しなければいけないので、美しく、清く正しい人間でいるのではなく、いろんな清濁、いろんなものが自分の中にあるということを意識して舞台にたたなければいけない難しい作品だと思います。

井澤:古典バレエとは違い、技術的な面でも表現方法がかわってきたり、ポーズをとってはいけなかったり、そこが重要視されるのではないかと思う。以前ヌレエフの『ロメオ』を観たことがあります。これはバレエなのかと思うほど一人ひとりのお芝居がナチュラルで、お客様にドラマティックさがダイレクトに伝わりやすいのかなと思います。勉強していきたいなと思います。

●ロメオ、ジュリエットをどう感じるか
大原:日本と海外とでは『ロメオ』の感じ方や、ロメオ、ジュリエットに対する感覚、表現も大分違うと思います。昨日唯ちゃんに言ったのは「ジュリエットはかわいくて、美しくて、弱々しいのではないよ」と。イタリア人なので、イタリア人の気質にそういうことはないですし、敵対している中をルールを打ち破って2人が一緒になり自殺する訳です。自殺は外国では特にカトリック教では罪なわけで、日本だけが美的とする。そういうことが分かった上で演じるのとでは違うし、ロメオもジュリエットも弱々しいのではなくずっと燃えていて、自分の家族を見捨てて死んでしまうのですから、そういう強さが必要。私はそう思いながら踊っていましたが、彼らがどう考えているか分かりません。ただ歴史的な背景を分かった上でやった方が良いと思います。何をやっても日本人がやれば日本の『ロメオ』になるし、個々の個性も自然とでてきます。
 ただ一つ言いたいのは、演技するなということ。演技って嘘なので。だからジュリエットになって彼を愛すればよい。(愛する者同士が踊れば一番楽だけれども、)2時間半なりその時間ロメオとジュリエットになって愛して、死ぬまでいってしまえばいいだけのこと。色々と演技しだすと浅くなる。私はそのように習ってきたし、役になるだけで出てくる。愛しあってお客様を泣かせてください。

福岡:振付にも反映されていて、忠実に踊っていれば性格がでると思います。時代が流れていくことによって振付が変わっていって、ニュアンスが変わったりするのですが、そこも振付の味だと思うのです。ロメオはとても友達思いで、やさしすぎて憎悪がうまれてティボルトを刺してしまいます。愛に対しては真実の愛を探し続けているので、運命的にジュリエットと出あって、ジュリエットしか見えないという一途なところも振付で決まっています。原作もある作品なので、本も読んで理解してやっています。

【出演者変更】
10月30日(日)公演にロメオ役で出演を予定していた井澤駿は、怪我のため出演できなくなりました。
代わりまして、ワディム・ムンタギロフが出演いたします。
詳細は下記、新国立劇場のホームページでご確認ください。

◆新国立劇場バレエ団『ロメオとジュリエット』
10/29(土)14:00、11/2(水)13:00 出/小野絢子 福岡雄大 他
10/30(日)、11/3(木)、11/5(土)各日14:00 出/米沢唯 ワディム・ムンタギロフ 他
新国立劇場 オペラパレス
問:新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999
http://www.nntt.jac.go.jp/ballet