若きシューベルトの挑戦の軌跡を辿る
シューベルトの全ピアノ作品を網羅する『佐藤卓史 シューベルトツィクルス』も、この秋で第6回目を迎える。今回のテーマは、「ピアノ・ソナタⅡ―20歳のシューベルト―」。ソナタ第5・7・8番、および「2つのスケルツォ D593」を取り上げる。
今回特に興味深いのは「双子のソナタ」とも称される第7番変ニ長調と第8番変ホ長調。両者を一晩のコンサートで聴けるのは極めて貴重。“原曲”としての第7番、その“アップグレード版”と見なされる第8番を、佐藤は丹念に読み解く。両者の違いを明確に整理し、第7番の未完部分を資料に基づいて補完し、第8番で拡大された箇所を把握する。自筆譜調査のためにウィーン楽友協会まで足を運ぶ熱意と、シューベルトの創作によせる関心。本公演は、そんな佐藤の飽くなき探求の成果となろう。
音楽そのものが放つ瑞々しさ、ウィットや思想を存分に伝えてくれる佐藤の演奏。研究に裏付けられた音楽の輝きを、ぜひ堪能したい。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ 2016年10月号から)
10/15(土)14:00 東京文化会館(小)
問:アスペン03-5467-0081
http://www.aspen.jp