杉並公会堂開館10周年記念 日本フィル杉並公会堂シリーズ2016 小林研一郎 × 日本フィル ベートーヴェン交響曲ツィクルス 第2回

楽聖中期の幕開けを、白熱の響きで体感する

 コバケンが振るベートーヴェンの交響曲を聴くと、それらの音楽がもつスケールの大きさを、改めて実感させられる。特に大晦日恒例の『全交響曲連続演奏会』でまとめて味わうと、どの曲も差のない“重み”を有していることが肌でわかる。その9曲と主要協奏曲を、今度は7ヵ月かけてじっくり堪能できるのが、杉並公会堂開館10周年記念の『小林研一郎×日本フィル ベートーヴェン交響曲ツィクルス』だ。
 7月の第2回の演目は、「ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲」と交響曲第3番「英雄」。共に1804年に作曲された「op.56」と「op.55」、すなわち両ジャンルで“傑作の森”中期の幕開けを告げる音楽である。勇壮ながらもチャーミングな三重協奏曲と、堂々たる威容で交響曲の歴史を変えた「英雄」の両曲を通して、同時期の作品の共通点と個々の違いを目の当たりにできる点が、今回の妙味といえるだろう。
 演奏自体もむろん楽しみだ。日本フィルは、コバケンがかつて音楽監督を務め、桂冠名誉指揮者就任後も定期的に共演している旧知の間柄。しかも彼は70歳を超えて円熟味を増し、日本フィルはここ数年の充実著しい。それゆえ“今”の両者だからこそ可能な、密度の濃い名演が期待される。三重協奏曲のソリストは、日本フィルのソロ奏者の木野雅之と菊地知也、そして内外で活躍するピアノの小林亜矢乃。親密さが重要な作品に相応しい顔ぶれだ。もうひとつ注目すべきは会場。1190席の杉並公会堂大ホールは、オーケストラの迫真的なサウンドが全身を包む稀有のホールだけに、その意味でも貴重な公演となる。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年6月号から)

7/13(水)19:00 杉並公会堂
問:杉並公会堂03-5347-4450
http://www.suginamikoukaidou.com