ベルリン・フィルを高音質で聴けるインターネットラジオが日本でスタート

〜IIJとベルリン・フィル・メディアが配信技術で協力

 株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)とベルリン・フィル・メディア(以下BPM)は、BPMが運営するベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の映像配信サービス「デジタル・コンサートホール(DCH)」において、IIJが「ストリーミングパートナー」となるスポンサーシップ契約を、2016年1月1日付で締結した。4月8日、都内で開いた会見で明らかにした。会見には、東京・春・音楽祭の「ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽」に出演のため来日中のオラフ・マニンガー(ベルリン・フィル首席チェロ奏者/メディア代表)、鈴木幸一(株式会社インターネットイニシアティブ代表取締役会長)、ローベルト・ツィンマーマン(ベルリン・フィル・メディア取締役)らが登壇した。
(Photo:M.Terashi/TokyoMDE)

左より)鈴木幸一(株式会社インターネットイニシアティブ代表取締役会長)、オラフ・マニンガー(ベルリン・フィル首席チェロ奏者/メディア代表)、ローベルト・ツィンマーマン(メディア取締役)
左より)鈴木幸一(株式会社インターネットイニシアティブ代表取締役会長)、オラフ・マニンガー(ベルリン・フィル首席チェロ奏者/メディア代表)、ローベルト・ツィンマーマン(メディア取締役)

 IIJでは長年培ってきたインターネット配信技術を活かし、「より良い音」を広域で配信する取り組みを積極的に行っており、15年4月にはベルリン・フィルの協力を得て、ベルリンでの演奏会をハイレゾ音源であるDSD5.6MHzフォーマットでライヴ配信する公開実験に成功した。続いて、同年12月には、世界初のハイレゾ音源によるストリーミングサービス「PrimeSeat(プライムシート)」を立ち上げ、音楽配信事業へ参入した。
ストリーミングサービス「PrimeSeat(プライムシート)」
ストリーミングサービス「PrimeSeat(プライムシート)」

 本契約で両社は、将来的には高精細映像と高品位音声を融合する未来の配信サービスを実現すべく、共同で新技術の開発に挑戦するとしている。

 最初のプロジェクトとして、BPMは、IIJのストリーミング技術を利用したハイレゾ音源配信サービスをDCHで新たに提供する。まず日本国内において4月8日より「ベルリン・フィル・レコーディングス」でリリースされた音源をオンデマンド配信し、提供地域は順次拡大していく。
 現在配信されているのは、サイモン・ラトル指揮「シベリウス交響曲全集」「シューマン交響曲全集」、ニコラウス・アーノンクール指揮「シューベルト作品集」。通常のCDの3倍から6倍の情報量をもつハイレゾ音源(FLAC 最大24bit/192kHz)を、一般的なブラウザ上でプラグイン不要で再生できる。購入前に90秒のサンプル再生も可能で、DCHのチケット(7日チケット / 9.90 €(約1200円)〜12ヵ月チケット / 149.00 €(約18000円))を購入済みもしくは、定期視聴契約( €14.90、約1800円 *30日ごとに自動更新)をしている場合、追加料金なしで再生可能。
 現時点ではPCからDACへデジタル出力はできないが、今後、DACへの接続によりさらなる高音質と操作性の向上を目指すとともに、ChromecastやAirPlayを用いた機器への転送機能も予定している。また、自主レーベル以外にグラモフォンなど、ベルリン・フィルが過去に演奏・録音しリリース済みの他レーベルのCD音源も順次公開する。そのほか、楽譜や字幕などの表示、楽曲形式、楽器など背景情報を提供したり、プレイリストや検索機能の実装、DCH用モバイルアプリへのハイレゾチャンネルの実装なども検討している。

デジタルコンサートホールでのハイレゾサービス画面
デジタルコンサートホールでのハイレゾサービス画面

 一方IIJは、BPMより独占的にコンテンツ提供を受け、「PrimeSeat」のインターネットラジオの新番組「ベルリン・フィル アワー」でベルリン・フィルの定期演奏会などをハイレゾ音源(PCM 24bit/48kHz)で配信する。初回放送は4月16日(土)19時からで、「ラトルのマーラー「巨人」、ベートーヴェン「第4」(2010年8月27日収録)」を、2回目の放送は4月23日(土)19時から「アバドのシューマン「第2」、ベルクのヴァイオリン協奏曲(独奏:イザベル・ファウスト 2012年5月10日、11日、13日収録)」を予定している。こちらの再生には、PC(Windows/Mac)とKORGが開発した専用ソフトウェア「PrimeSeat」(無料ダウンロード)が必要。
専用ソフトウェア「PrimeSeat」を起動すると新番組「ベルリン・フィル アワー」の表示
専用ソフトウェア「PrimeSeat」を起動すると新番組「ベルリン・フィル アワー」の表示

「ベルリン・フィル アワー」の番組紹介から
「ベルリン・フィル アワー」の番組紹介から

※「PrimeSeat」の一部番組ではDSDによる配信も行われている。DSDには対応DACが必要となるが、DACがない環境でも、端末機器の再生能力に応じた音質に自動コンバートして再生される。
対応DACのひとつ、DS-DAC-10R
対応DACのひとつ、DS-DAC-10R

 今後は、DCHにIIJが配信基盤となるクラウドネットワークを提供。4Kテクノロジー、ヴァーチャル・リアリティ映像、バイノーラル・オーディオ等も視野に置き、高品位および最新技術によるストリーミングをめぐる様々なプロジェクトを実施していく考えだ。

 今回の締結は、昨年4月、IIJ、KORG、Saidera Paradiso、ソニーの4社が協働し公開実験した、ベルリン・フィルハーモニー・ホールでのサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル演奏会(ベルリオーズ《ファウストの劫罰》全曲)の、DSD5.6MHz(CDの約128倍もの情報量をもつハイレゾ音質)でのライブストリーミング配信に成功したことによるもの。
 会見で鈴木は「既存のテレビ放送の帯域を将来『4K』配信に使う場合、使えるのはせいぜい1.5局分程度。そうなると、将来あらゆるコンテンツを運ぶ経路としてインターネットが主流となる」としたうえで「世界に遅れないためにも、将来の世界を予見させるような配信サービスの経験を重ねていく必要がある」、その最初のプロジェクトとして「動画を見るくらいのリッチなインターネットの帯域を使って、高音質な音だけを配信する、きわめて画期的なサービス」だと説明、「世界的な名声を持つベルリン・フィルは、演奏も配信の技術や経験も世界最高水準。IIJは世界一の配信技術を持っていると自負している。著作権などの壁が多い日本で、配信を根付かせたいというのが狙い。日本を変える、いい機会だと考えている」と自信をみせた。

 また、収益面については「すぐに儲かるようなプロジェクトは、あまり大したビジネスにならない」としながら「高品質の配信はIIJの事業の柱になると20年前に想定したが、まだビジネスにはなっていない。20年続けてやっとここまで来たという実感。日本には技術も運用ノウハウもあるけれども、それを利用したり取り組もうとする政策がないのも事実。今後に向けた実験と普及のために、ベルリン・フィルとの今回の協働は一番いい場所じゃないかと考えている」とした。

鈴木幸一(株式会社インターネットイニシアティブ代表取締役会長)
鈴木幸一(株式会社インターネットイニシアティブ代表取締役会長)

 それを受けオラフ・マニンガーは「ベルリン・フィルは以前から可能な限りその時代の最新技術を活用してきました。ステレオに始まって、カラヤンの時代には映像にいち早く取り組み、ソニーの大賀さんとでCD開発など。さらに現代ではDCHで定期演奏会の映像を配信している。メディアとともに最高の音質を届けることに邁進してきました。その実現にはドイツ銀行やソニーなど優れたパートナーとの協力がありました。今回、先を見る視線をもっているIIJというパートナーを得られたことは幸運で、鈴木会長のクラシック音楽に対する造詣の深さと愛情に感銘を受けると同時に、革新を恐れないその姿に、未来への扉を開いてくれる方だと信じています」との賛辞を贈った。

 また、日本で最初にプロジェクトを始めることについてマニンガーは「日本の聴衆は常にクォリティに対して高い要求をされる。音だけを提供することに対して、どういう受けとめ方をされるのか注視したい。また、ドイツとは比較にならないほどインターネット環境が整っていて、光ファイバーの普及率はドイツでは5%だが日本では60%にもなると聞いており、今回のサービスを行うのに日本ほど適した国はない」とコメントした。

オラフ・マニンガー(ベルリン・フィル首席チェロ奏者/メディア代表)
オラフ・マニンガー(ベルリン・フィル首席チェロ奏者/メディア代表)

株式会社インターネットイニシアティブ
http://www.iij.ad.jp
PrimeSeat(プライムシート)
http://primeseat.net
デジタルコンサートホール
https://www.digitalconcerthall.com

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