様々な視点から音楽を紐解く東京春祭恒例の人気シリーズ、マラソン・コンサート。
今年のテーマは「変奏」。
バッハからサティまで、「変奏」の世界を案内するヨーロッパ文化史研究家の小宮正安が、お話・企画・構成の立場からコンサートの聴きどころを紹介する。
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◆ヨーロッパの「変化」の歴史が生んだ「ヴァリエーション」
〈Variation(ヴァリエーション)=変奏曲〉という言葉、元はといえばラテン語の〈variare(ヴァリアーレ)=変化させる〉から来ている。そう考えると「ヴァリエーション」は、音楽の世界だけの話には限らない。もっと意味を幅広くとって、「変化させること」そのものと考えたってよいだろう。
音楽を変化させる試み自体は、世界各地の様々な音楽でおこなわれている。だがそれを、「ヴァリエーション」という一大ジャンルにまで発展させたのは、いわゆる西洋クラシック音楽。数多の民族や文化が衝突や共存を繰り返してきたヨーロッパだからこそ、「変化」が起こるのは当然であり、またそうした「変化」にどのように向かい合うのかという意識が形作られた。そしてこの意識が、音楽においてもはっきりと現れていった。
◆「ヴァリエーション」のもつ意味
こんなことを考えながら企画・構成をおこなったのがマラソン・コンサート。単に、様々な種類の変奏曲を並べて満足するのではなく、「ヴァリエーション」というものが西洋クラシック音楽において、さらにはヨーロッパでどのような意味を持っているのかという大きなテーマを、音楽を通して感じ取れるようなプログラムにしたかった。
コンサートの第1部は、「変化・変容」がヨーロッパで積極的に取り入れられるようになったルネッサンス時代の曲を中心に幕を開ける。そして、多彩な変奏で人々を魅了したオペラをテーマにした第2部、変奏曲に革命的な価値を持ち込んだベートーヴェンを扱った第3部、変奏曲が一般市民のサロン等でも愛された時代を彷彿させる第4部を経て、「変化・変容」が過剰なまでに推し進められた結果「変奏曲」そのものが変革を余儀なくされていった近現代をフィーチャーした第5部で終わる。
◆ウィーン楽友協会資料館所蔵の蔵出し作品
もちろんメインテーマが「Variations」だから、様々な曲目や演奏者が登場するのは言うまでもない。中には、ウィーン楽友協会資料館所蔵の蔵出し作品も(『トリーベンゼー作曲:ハイドンの「びっくり交響曲」による変奏曲』を、当時の手書きの写譜を基にして演奏)。変容する音楽の彼方に見えてくるヨーロッパの変化を、丸一日がかりで追体験しよう!
(文:小宮正安/ヨーロッパ文化史研究家、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府教授)
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■東京春祭マラソン・コンサート vol.6
Variations(変奏) ー 変容する音楽
http://www.tokyo-harusai.com/program/page_3024.html
2016.4.3 [日] [ 各回約60分 ]東京文化会館 小ホール
お話・企画構成:小宮正安
(ヨーロッパ文化史研究家、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府教授)
【第Ⅰ部】11:00 《聖なる存在》の変容
■出演
ソプラノ:佐竹由美
メゾ・ソプラノ:中村裕美
テノール:鈴木 准
バリトン:吉川健一
ビウエラ:佐藤亜紀子
ピアノ:朴 令鈴、山田武彦
■曲目
デシウス(J.S.バッハ編):コラール 「神のみいと高きところにおわす」
J.S.バッハ:キリストの昇天によってのみ
(カンタータ 《キリストの昇天によってのみ》 BWV128 より)
ルイス・デ・ナルバエス:「牛を見張れ」による7つのディフェレンシア
J.S.バッハ:その大いなる御力を深め
(カンタータ 《キリストの昇天によってのみ》 BWV128 より)
レーガー:J.S.バッハのテーマによる変奏曲とフーガ op.81
【第Ⅱ部】13:00 《オペラ》の変容
■出演
ソプラノ:佐竹由美
ヴァイオリン:伊藤亮太郎、西江辰郎
フルート:竹山 愛
ピアノ:岡田 将、朴 令鈴
■曲目
モンテヴェルディ:トッカータ、リトルネッロ、プロローグ
(歌劇 《オルフェオ》 より)
ヘンデル:私を泣かせてください(歌劇 《リナルド》 HWV7 より)
パイジェッロ:虚ろな心(歌劇 《美しい水車小屋の娘》 より)
パイジェッロ(ベーム編):
パイジェッロの歌劇《美しい水車小屋の娘》より「虚ろな心」による変奏曲
ヴェルディ(メルキオーリ編):
美しい愛らしい娘よ(歌劇 《リゴレット》 より)
リスト:リゴレット・パラフレーズ
【第Ⅲ部】15:00 《英雄》の変容
■出演
ヴァイオリン:伊藤亮太郎、西江辰郎
チェロ:小川和久
コントラバス:山本 修
フルート:小山裕幾
ピアノ:加藤昌則
■曲目
ベートーヴェン:12のコントルダンス WoO.14
クレメンティ:ピアノ・ソナタ ト短調 op.7-3
ベートーヴェン(ツレーナー編):
バレエ音楽 《プロメテウスの創造物》 op.43 より 序曲
バレエ音楽 《プロメテウスの創造物》 op.43 より フィナーレ
ベートーヴェン(フンメル編):
交響曲 第3番 変ホ長調 op.55 《英雄》より 第4楽章
【第Ⅳ部】17:00 《サロン》の変容
■出演
ヴァイオリン:伊藤亮太郎、西江辰郎
ヴィオラ:安藤裕子
チェロ:小川和久
フルート:小山裕幾、竹山 愛
イングリッシュホルン:大植圭太郎
ピアノ:岡田 将、加藤昌則、高田匡隆
■曲目
ベートーヴェン(ブゾーニ編):6つのエコセーズ WoO.83
バダジェフスカ:乙女の祈り 変ホ長調 op.4
ハイドン(ヴィルバク、シュルツ、プロック編):
交響曲 第94番 《驚愕》より 第2楽章
トリーベンゼー:ハイドンの「びっくり交響曲」による変奏曲
シューベルト:
死と乙女 D.531
弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D.810 《死と乙女》 より 第2楽章
レーガー:「美しく青きドナウ」による即興曲
【第Ⅴ部】19:00 《変奏曲》の変容
■出演
ピアノ:岡田 将、加藤昌則、高田匡隆、山田武彦
ポジティフ・オルガン:大木麻理
■曲目
ワーグナー(ラインハルト編):
ハルモニウムとピアノのための二重奏曲「聖杯城への行進」
(舞台神聖祝典劇 《パルジファル》より)
サティ:
ヴェクサシオン(部分)
パッサカリア
ブラームス(ケラー編):交響曲 第4番 ホ短調 op.98 より 第4楽章
バッハ(ブゾーニ編):
シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004 より)
■チケット料金(税込)全席指定
一日券(5公演通し券)¥7,700、1回券¥2,100