下野竜也(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団

戦後を築いた日本の大家の名作を聴く

下野竜也 ©Naoya Yamaguchi Studio Diva
下野竜也 ©Naoya Yamaguchi Studio Diva
 日本の作曲家はどんなオーケストラ曲を書いてきたのだろう? 三善晃、矢代秋雄、黛敏郎…。戦後を築いた大家たちの代表作を並べた新日本フィル5月定期は、そういう疑問にストレートに答えてくれる。日本の現代音楽に足を踏み入れたい人は、まずこれを聴くべし。
 実はこの3人には共通点がある。いずれも戦後混乱期にパリで学んでいるが、矢代や三善が洒脱な和声、アカデミックな作風を持っているのに対し、黛はジャズや電子音楽といった新しい潮流を持ち帰った。その後、彼はそれらを日本の伝統美に接続する。
 この日はまず、管弦楽の各パートが緊密に対話する「管弦楽のための協奏曲」で始まる。オーケストラと独奏の厳しい対峙を追求した、三善のいわゆる「協奏曲の時代」を代表する作品で、短いながら激しいエネルギーを放出する。
 「ピアノ協奏曲」は、寡作だが質の高い作品を残した矢代の創作の中でも、ひときわ人気の高い曲。不規則なリズムや独特なハーモニーに彩られており、両端楽章のテーマの執拗な反復はハマる。ソロは現代ものを得意とするトーマス・ヘル。日本人奏者とはひと味違う解釈が聴かれるかもしれない。
 後半は黛の代表作「涅槃交響曲」。鐘の音を電気的に解析し管弦楽で再現するとか、お経を狭い音程で重ねるなど、伝統的な素材を新しい手法で大胆に扱った本作は、同時代人に衝撃を与えた。戦後音楽史を語る上ではずせない名曲だ。
 指揮は下野竜也。いま、邦人作品といえばこの人。現代音楽をおもしろく聴かせることにかけて右にでるものはいない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)

#559 定期演奏会 トリフォニー・シリーズ
5/27(金)19:15、5/28(土)14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
http://www.njp.or.jp