没後50周年記念演奏会 信時 潔「海道東征」

記念イヤーに復活する幻の大作

信時 潔
信時 潔

 1940年は神武天皇即位から数えた皇紀2600年にあたり、東京でオリンピックと万博が同時に行われることになっていた。戦争の激化でこれらの計画は流れたとはいえ、世相は奉祝ムードに包まれていた。神武天皇の東征をテーマにした信時潔(1887〜1965)の代表作、交聲曲「海道東征」は、このさなかに作曲され、やまとことばの力強さを素直に引き出した日本人初の本格的カンタータ(詞・北原白秋)として盛んに演奏された。上演には約50分を要する。
 戦後はほとんど再演の機会がないまま半ば幻となっていたこの曲、信時没後50年を記念して東京芸大が自筆譜にもとづき、総力を挙げて蘇演(湯浅卓雄指揮 東京芸大シンフォニーオーケストラ 他)、また関連展示やシンポジウムを行うという。信時は芸大作曲科の設立に尽力し、「海行かば」の作曲者としても知られている。今、信時を通じ私たちが改めて考えるべきは、芸術という創造的な営為が、戦争という破壊行為の礼賛へといつの間にかすり替えられてしまう、その恐ろしさだろう。信時の悩みもそこにあったに違いない。このような時代だからこそ、しっかりと受け止めたい。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

11/28(土)15:00 東京芸術大学奏楽堂
問:東京芸術大学演奏芸術センター050-5525-2300
http://www.geidai.ac.jp
※シンポジウムや、関連展示の情報は上記ウェブサイトでご確認ください。