パルティトゥーラ・プロジェクト ベートーヴェン ピアノ協奏曲全曲演奏会

競争ではなく共存を目指す新たな潮流


 1つの楽曲を様々な演奏で紹介する、意義深い企画を推進してきたのがすみだトリフォニーホールだ。「ゴルトベルク変奏曲」の成果も光るが、ベートーヴェンのピアノ協奏曲全5曲にも力を注ぎ、これまでにゲルバー、ダン・タイ・ソンなど複数の奏者が名演を披露した。そしてこの10月にも全5曲の公演が開催される。だが今回は、異なる視点による注目の演奏会となる。
 題して『パルティトゥーラ・プロジェクト』。パルティトゥーラとは、楽譜や総譜を意味する。これは、真摯かつ生命力豊かな現代屈指のピアニストであるマリア・ジョアン・ピリスが教鞭をとるベルギーのエリザベート王妃音楽大学が、彼女の信念に共感して立ち上げたプロジェクト。「様々な世代のアーティストをつなぎ、自己の利益だけを求めるのではなく、他者との共存や分かち合いを目指す」を旨に、世界各地で公演を行っている。
 ピリス自身と彼女が見出した俊英たちがステージを共にするのが具体的内容。今回は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲5曲のソロを振り分けて演奏する。まずピリスが弾くのは第3番と第4番。昨年発売されたCDの演目でもある両曲は、彼女の今を知るにも相応しい。第1番は1987年ベルギー生まれのジュリアン・リベール、第2番は88年フランス生まれのナタナエル・グーアン、そして第5番「皇帝」は95年横浜生まれの小林海都と、何れもエリザベートでピリスに師事する有望株が担当。中でも内外の著名楽団と数多く共演している小林への期待は大きい。バックはピリスの盟友オーギュスタン・デュメイが指揮する新日本フィルゆえに万全。甘美な「ロマンス」でデュメイのヴァイオリンが聴けるのも嬉しい。我々はここで、ピアノ界の現在と未来を感知しよう。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年10月号から)

10/27(火) ピアノ協奏曲第1番〜第3番
10/29(木) ロマンス第1番・第2番、ピアノ協奏曲第4番・第5番「皇帝」
各日19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
https://www.triphony.com