
スイスの名門、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団が音楽監督パーヴォ・ヤルヴィとのコンビでは2年7ヵ月ぶり、2度目の日本ツアーを2026年5月に行う。
筆者がクラシック音楽を聴き始めた少年時代、オーケストラの名前は全部「○○交響楽団」「××フィルハーモニー管弦楽団」だと思っていた。ところが小中学校で下校放送のアナウンスを担当していた時、毎日かける「家路」(ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」の第2楽章)のLP盤は「チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団」と、不思議な名前の団体だった(ヨーゼフ・クリップス指揮、1961年「コンサートホール・ソサエティ」レーベルの録音)。チューリッヒはスイス・ドイツ語圏の中心で裕福な国際金融都市、トーンハレは「音楽堂」を意味するドイツ語だと知ったのは少し後のこと。日本での知名度と評価を一気に高めたのは1965〜72年に首席指揮者を務めたルドルフ・ケンぺが指揮したブルックナー交響曲第8番(1971年録音)の国内盤リリースと、87〜91年に首席指揮者を務めた若杉弘と90年に行った初めての日本ツアーを通じてである。
1868年創立の名門はブルックナーの演奏解釈において、ヨーロッパの先端を走ってきた。1906〜49年の長きにわたって音楽監督を務めたスイスの巨匠フォルクマール・アンドレーエがブルックナーのスペシャリストだったからだ。2019年に音楽監督に就いたパーヴォ・ヤルヴィが前任地ドイツのフランクフルト放送(hr)交響楽団とブルックナーの交響曲全集(ソニー)を完成したにもかかわらず、約10年ほどで後期3曲(第7〜9番)の再録音に踏み切ったのも「ウィーン・フィルやベルリン・フィルに匹敵するドイツ音楽の傑出した演奏能力、ウィーン楽友協会(ムジークフェライン)ホールと同じかそれ以上に優れたチューリッヒ・トーンハレの音響が、ブルックナーの再現には理想的」と考えたからだった。「私にはこの素晴らしいオーケストラの評価と知名度を世界的に引き上げる責任があります」。もちろん、今回のツアーにもブルックナーの交響曲(第4番「ロマンティック」)が含まれている。もう1つのプログラムの交響曲には北欧圏エストニア出身のマエストロが得意とするロシア音楽、チャイコフスキーの第5番が選ばれた。
同行ソリストは2人。ヤルヴィとは初共演になる反田恭平がベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、オランダ出身でスケールの大きなヴァイオリニスト、ジャニーヌ・ヤンセンがブラームスのヴァイオリン協奏曲と、ドイツ音楽の王道で妙技を競う。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2026年4月号より)
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮) チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
2026.5/17(日)♦13:30 横浜みなとみらいホール
5/18(月)★、5/19(火)♦ 各日19:00 サントリーホール
5/21(木)★19:00 すみだトリフォニーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
2026.5/22(金) 愛知県芸術劇場 コンサートホール★(東海テレビチケットセンター052-951-9104)
5/23(土) 大阪/ザ・シンフォニーホール★(06-6453-2333)
♦ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン) ★反田恭平(ピアノ)
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com
