家の近くにこんなホールがあったら――大阪の箕面(みのお)市立メイプルホールを拠点とする「身近なホールのクラシック」シリーズのラインナップを見るにつけ、箕面市近隣の皆さんをうらやましく思う。多くのクラシック音楽ファンにとって、コンサートは電車や車で小一時間かけて出かけて行った都市のホールで聴くもの。地元の公共ホールで行なわれている、地域住民のための音楽普及を目的とした企画とはギャップがあることも多いだろう。けれど、徒歩圏内のホールで「今、いちばん聴きたいコンサート」が聴けたら? それを叶えてくれるのが、芸術性と公共性の両方を満たす「身近なホールのクラシック」である。

今年で10周年を迎えるこのシリーズのプロデューサー、和田大資氏は、「セレクトショップのオーナーのように、500人の友だち(メイプルホールの座席数は501席)に勧めるつもりで企画を考えている」と語る。2026年度は「私たちには、言葉がある」というテーマのもと、ワールドワイドに活躍する音楽家から気鋭の文筆家まで、多彩なアーティストによる企画が出揃った。そのセレクトの内容をご紹介していこう。
バラエティ豊かな音楽が箕面に響きわたる!
まずは注目のオーケストラ・コンサートから。上岡敏之指揮、大阪交響楽団によるシューマンの交響曲全曲演奏会が3回にわたって開催される(2027年度にかけての連続企画)。同楽団は2022年から24年にかけて、坂入健司郎の指揮のもとブラームスの交響曲全曲演奏会をメイプルホールで行なってきた。オーケストラの演奏会場として決して大きいとは言えないこのホールで、いかに効果的に響きをコントロールするか、坂入との4回のシリーズを通して試行錯誤のうちに体得してきた大阪交響楽団。ドイツの歌劇場とオーケストラでキャリアを積んできた名匠、上岡とともにロマン派の真髄を聴かせてくれるだろう。音楽評論家の奥田佳道による講座「シューマン三昧!」と合わせてじっくり理解を深めたい。

9月にはフランスのピアニスト、アレクサンドル・タローが3年ぶりにメイプルホールに帰ってくる。プログラムはまだ発表されていないが、クープラン、バッハからシューベルト、ショパン、20世紀の作曲家や映画音楽に至るまで幅広いレパートリーをもつタローは、シャンソン歌手のバルバラに心酔し、「いつも自分が歌い手のつもりでピアノを弾いている」と語る。どの時代の曲を弾いても、もはや彼自体がフレンチ・ピアニズムを体現する存在だと言える。
11月に東京建物 Brillia HALL 箕面(箕面市立文化芸能劇場)で挾間美帆&デンマークラジオ・ビッグバンド(DRBB)が聴けるのも、いち早く話題のアーティストを呼ぶ「身近なホールのクラシック」ならでは。ジャズ作曲家としてニューヨークで活躍し、DRBBのために書き下ろした楽曲がグラミー賞で最優秀インストゥルメンタル作曲賞にノミネートされた挾間だが、じつはクラシック出身。クラシック作品の作編曲も手がける挾間の音楽は、かつてクラシックがジャズと出会った時代の息吹をも感じさせる。ジャズ・ファンならずとも必聴だ。

12月には森脇涼指揮、神戸市混声合唱団による「いいとこどり! ざくっとメサイア」が開催される。ヘンデルのオラトリオ「メサイア」からの抜粋を、合唱と、4手のチェンバロとチェロの伴奏で聴く企画。メシア(救世主)の誕生、受難、復活という生涯を描いた大作「メサイア」を聴くことは、聖書の言葉と向き合うことでもある。そう聞くと少し難しく思えるかもしれないが、名場面のダイジェストなのでご安心を。物語を追って聴くことで、有名な「ハレルヤ・コーラス」の感動も大きく感じられるに違いない。
さらに2027年2月には、神戸市混声合唱団に所属するソプラノ端山梨奈が地域の生涯学習センターで開催される「箕面おんがくア・ラ・カルト」にも登場する。

「言葉」とともに深まる音楽の愉しみ
そして、メイプルホールの小ホールや箕面市内の生涯学習センターでも、「言葉」にフォーカスした講座やコンサートが開かれる。朝日新聞編集委員の吉田純子による「トーク・サロン 音楽家の『言葉』たち」もそのひとつ。クラシック担当の記者として、数えきれないほどの音楽家たちにインタビューをしてきた吉田が、彼らの言葉から音楽という営みを紐解く講座。ジャーナリストの目と耳を通して捉えた音楽についての話を聞ける貴重な機会でもある。
言葉と音楽について考えるときに、避けて通れない批評について深く切り込んでいく布施砂丘彦の講座「箕面おんがく批評塾」も、好評のうちにシーズン4が開催される。コントラバス奏者として、舞台の演出家として、評論の執筆者として、布施の多岐にわたる表現活動の根底には、本人の言葉によると「OSとして批評がインストール」されているのだという。本講座では、聴き手としての我々も批評をインストールすることで、音楽の捉え方や価値観の変化へとつなげていく。

NHK交響楽団首席ヴィオラ奏者の村上淳一郎を座長とする「おんがくの寺子屋みのお」のオープン・リハーサルも、聴き手に変化をもたらす場だ。演奏家のリハーサルを見学し、村上の言葉がけひとつで魔法のように変わる演奏を聴くことで、これまで聴き慣れていた音楽や楽譜のなかに新たな発見をし、演奏家と聴き手の双方が学び合う。
昨年度の生涯学習講座「リコーダーと音楽史~当事者としての物語の紡ぎ方」を担当した菅沼起一がキュレーションするコンサート・シリーズ「みのおで古楽と」がスタートするのも楽しみだ。シーズン1は「うたを歌う、がっきで歌う」をテーマに、3回のコンサートが小ホールで開催される。バーゼル・スコラ・カントルムとフライブルク音楽大学で学んだ研究者が、信頼できる音楽家とともに身近なホールにヨーロッパの最前線を届ける企画が、古楽の裾野を広げてくれることを期待したい。

文:原典子
箕面市立メイプルホール 《身近なホールのクラシック》
2026年度ラインナップ 「私たちには、言葉がある」

♪上岡敏之指揮 大阪交響楽団
シューマン交響曲全曲演奏会(全3回/2026・2027年度 連続企画)
【Vol.1】2026.6/18(木)19:00 箕面市立メイプルホール
〇曲目
シューマン:交響曲第1番「春」、交響曲第4番
♪アレクサンドル・タロー ピアノ・リサイタル
9/30(水)19:00 箕面市立メイプルホール
♪挾間美帆指揮 デンマークラジオ・ビッグバンド
11/14(土)16:00 東京建物 Brillia HALL 箕面(箕面市立文化芸能劇場)
♪森脇涼指揮 神戸市混声合唱団
いいとこどり!ざくっとメサイア
12/25(金)14:00 箕面市立メイプルホール
〇曲目
ヘンデル:オラトリオ「メサイア」抜粋
〇共演
チェンバロ:三橋桜子、パブロ・エスカンデ
チェロ:中村仁
♪トーク・サロン 音楽家の「言葉」たち
5/13(水)、6/3(水)、7/1(水) 各日19:00 箕面市立メイプルホール(小)
〇登壇
お話:吉田純子(朝日新聞編集委員)
聞き手:和田大資
♪みのおで古楽と|シーズン1
キュレーション/お話/リコーダー:菅沼起一
「うたを歌う、がっきで歌う」
【第1回】
5/16(土)14:00 箕面市立メイプルホール(小)
『器楽のための器楽による器楽曲』の片隅で:シューマン時代の歌曲編曲とポプリ
〇出演
バスバリトン:内山建人
ピアノ:森田有衣子
【第2回】
9/23(水・祝)14:00 箕面市立メイプルホール(小)
ジョン・ダウランド没後400年記念:ラクリメとイン・ノミネ
〇出演
バロック・ヴァイオリン:大内山薫
ヴィオラ・ダ・ガンバ:頼田麗、野口真紀、中村仁
リュート:小出智子
テノール:大野彰展
【第3回】
10/13(火)19:00 箕面市立メイプルホール(小)
最速の音符を求めて:ディミニューションが彩った歌、速度とリズム
〇出演
ヴィオラ・ダ・ガンバ:坂本龍右
リュート:小出智子
テノール:大野彰展
♪シューマン三昧!
5/22(金)、6/12(金) 各日10:30 箕面市立メイプルホール(小)
お話:奥田佳道(音楽評論家)
♪おんがくの寺子屋みのお オープン・リハーサル
2027.1/26(火)~1/30(土)11:00~20:00(予定)
箕面市立西南生涯学習センター
座長:村上淳一郎(NHK交響楽団首席ヴィオラ奏者)
♪箕面おんがく批評塾|シーズン4
【第1回】
6/6(土)14:00~18:00、6/7(日)10:00~15:00
【第2回】
9/5(土)14:00~18:00、9/6(日)10:00~15:00
【第3回】
12/5(土)14:00~16:30、12/6(日)10:00~15:00
箕面市立船場生涯学習センター
塾長:布施砂丘彦(演奏/批評/企画/演出)
♪箕面おんがくア・ラ・カルト
2027.2/7(日)11:00 箕面市立西南生涯学習センター、15:00 箕面市立東生涯学習センター
「言葉をうたう—いまを生きる日本の歌」
〇出演
端山梨奈(ソプラノ)、山口聖代(ピアノ)
〇曲目
岡野貞一:朧月夜(山口聖代編)
山田耕筰:この道
中田喜直:悲しくなったときは
山口聖代:あお
他
問:箕面市メイプル文化財団072-721-2123
https://minoh-bunka.com

