
3月1日、平野一郎のピアノ・ソナタ第一番〈光人彷徨〉(2023年初演)の再演を担当する初演者イリーナ・メジューエワさんが作品について流ちょうな日本語で話してくれた。
「この曲はとんでもない傑作だと思います。21世紀の〈ハンマークラヴィーア〉と呼んでもよいでしょう。たいへんなヴィルトゥオージティを要求するうえ、精神的にもすごく深い。平野一郎さんの作品は、基本的に人間の「魂」に語り掛ける、あの世(死者)とこの世(生者)を繋ぐような音楽ですが、〈光人彷徨〉はとにかくスケール感が半端ではありません。何千、何万という魂を相手にするようなところがあって、演奏するのはほとんど命懸けです。初演(2023年11月)のあとは、自分の魂が抜けてしまったかのようで、数日間動けませんでした。音楽的な魅力ということでは、このソナタは宇宙的な響きをもっていると思います。楽譜そのものも美しいですし、数学的な要素も感じられます。響きやハーモニーの点でピタゴラスの世界に近いですね。音を聞くだけで特別な体験ができるはずです」。

47分を要する〈人間ソナタ〉や、わりあい最近初演したばかりの〈親和力∨恋苧環〉(しんわりょくまたはこひのをだまき)など複数作品を初演しているヴィオラの安達真理さんが続ける。
「〈光人彷徨〉と〈人間ソナタ〉を一気に聴くというのは、衝撃的な体験になるはずです。平野さんの描く多次元的な世界を体現しようとその間を行き交うとき、物凄い風圧のようなもので自分が吹き飛ばされそうになる。そこに必死にしがみつくように、肉体的にも精神的にもギリギリのところで演奏しなければならず、否応なく自分が限界だと思っていた領域を超えさせられる。(昨年4月の演奏会では)平野作品を弾いたあとのブラームスは、これまでのブラームスとは違ったものになりました。演奏した私自身もそうですが、お客さまもそれまで経験したことのないエネルギーを浴びて違うフェイズに入る。それと平野さんは自分のために作曲しているのではない、その作品が”生まれてほしい“と熱望している過去の人たち(渡辺註・作曲家が熱い思いを寄せている人たちのことか?)のエネルギーが平野さんを通してやっと形になって表れた、そういう種類のものです」。

当日3番目のソナタであるショスタコーヴィチの遺作「ヴィオラ・ソナタ」作品147を両人で演奏するのは初めてだという。メジューエワさん曰く、これも「ちょっと普通でないソナタ」で、「練習していて涙が出てきました」。聞くところよれば、ロシアでは死ぬ前に自分とかかわった全ての人を赦(ゆる)すという考えがあるそうだ。

取材・文:渡辺和彦 写真:編集部
CROSSING衢PROJECT Vol.4
安達真理×イリーナ・メジューエワ
三つのソナタ|闇と光の黙示劇~ヴィオラとピアノによるソロとデュオ~
2026.3/1(日)14:00 TOPPANホール
出演
安達真理(ヴィオラ)
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
プログラム
ラフマニノフ:ヴォカリーズ op.34-14
平野一郎:ピアノ・ソナタ第一番〈光人彷徨〉左手と右手に依る二幕の黙示劇
平野一郎:無伴奏ヴィオラに依る〈人間ソナタ〉
ショスタコーヴィチ:ヴィオラ・ソナタ op.147
問:東京コンサーツ03-3200-9755
https://www.tokyo-concerts.co.jp


