言葉を究めた先に響く——仲道郁代と黒田祐貴が描く新たな「冬の旅」

©Tomoko Hidaki

 「シューベルトの天才さに驚愕しています」

 仲道郁代が歌曲と向き合うHakuju Hallのシリーズ「言葉を奏でる」の第2弾。バリトンの黒田祐貴との共演で「冬の旅」を奏でる。

 「言葉を、その意味だけでなく、文化的背景や文学史の流れの中に位置付けて見ていくと、捉え方がより深まります。言葉と音楽のあり方のすごさ。歌とピアノが、違う意味をなしていたり、感情が立体的に書かれていたり。シューベルトの詩への洞察力の深さに目を開かされる思いです」

 その“言葉の向こう側”を追求するために、「今すごいことをしているんです」と、実にうれしそうに教えてくれたのが、ゲーテ『ファウスト』最新訳でも知られるドイツ文学者・粂川麻里生と重ねている勉強会のこと。

 「詩人ヴィルヘルム・ミュラーの研究者の渡辺美奈子先生はじめ、ドイツ文学の研究者さんにも参加していただいて濃密な内容で、毎回4〜5時間があっという間です。

 たとえばトーマス・マンの『魔の山』(1924)は、主人公の“死と生”という、『冬の旅』と共通するテーマを扱っていますが、作中に菩提樹が象徴的に登場します。菩提樹はゲーテの『若きウェルテルの悩み』にも出てくる。では菩提樹とはいったい何なのか。『冬の旅』の主人公が菩提樹から遠く離れていく、その時間軸はどういうものか。さらに、彼はどこからどこへ向かっているのか。など、これらの詩を深く読み込む議論をしています」

 探求の成果は音となり、私たちにも直接伝わる。

 「さまざまな学びを踏まえて楽譜を見ると、そのパッセージが何を象徴しているのか、何を暗喩しているのかがわかってきて、新たな発見があります。その意味をいかに丁寧に音にしていくか。薄い紙を重ねていくように音にした演奏は、心のひだに届きやすいと思うのです。そんなこまやかな表現を味わっていただけたらうれしいです」

 注目度急上昇中の黒田祐貴は、2021年のデビューCD『Meine Lieder』もドイツ歌曲が軸だった。朗々と響くみずみずしい声。彼もまた仲道とともに勉強会に参加。ピアノと一体で“言葉”の深淵を紡ぎ出してくれるにちがいない。

 公演は粂川教授による新訳の字幕付き。歌い手とピアニストの対話や呼吸に集中したまま詩の意味を確認できる。当日は仲道と粂川教授によるトークもあり、言葉と音楽の世界へ誘う。さらには、ふたりによる事前レクチャーの開催も決まった(1/24)。ピアニストの知的興奮を共有する絶好のチャンスだ。

取材・文:宮本 明

(ぶらあぼ2026年1月号より)

仲道郁代 言葉を奏でる vol.2 シューベルト「冬の旅」~黒田祐貴を迎えて
2026.2/28(土)15:00 Hakuju Hall
仲道郁代と《冬の旅》を読み解こう
1/24(土)15:00 白寿生科学研究所 本社ビル2階大研修室
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp