
Akira Senju
作曲
時代の真ん中で響きを刻み続けて40年いま原点を見つめ直す
作曲家、編曲家、プロデューサー……と多彩な顔を持つアーティスト、千住明(1960年生)が「活動40周年」を記念し、全曲オリジナル&オーケストラ演奏の新譜『RE-BORN』(エイベックス・クラシックス)をリリースした。1987年の若書きから2025年の大阪・関西万博のための音楽まで8作品に新たなアレンジを施し、小林沙羅(ソプラノ)や千住真理子(ヴァイオリン)のソロも交え、SENJU LABのオーケストラと合唱団で録音した。
インタビュー冒頭、「一体いつから数えての40年ですか?」と尋ねた。
「東京藝術大学音楽学部に入る前からデモテープを制作したり、ヤマハのポップスのお手伝いをしたりしていました。藝大は本来、学生が働いてはいけないところなのですが、恩師の南弘明先生だけは、カラオケのアレンジだろうと何だろうと全部、『研究のために有意義だ』とおっしゃって通して下さったのです。1985年のある日、羽仁未央監督の映画『アフリカ動物パズル』で大貫妙子さんが制作するサウンドトラックの中の4曲を編曲する仕事が舞い込みました。『ラストエンペラー』で多忙を極めていた坂本龍一さんの代役という、夢のようなお話です。これを正式デビューとします」
過去40年の歩みを包み込んだ『RE-BORN』は千住の「音の自分史」であり、ジャケットには当時と今の千住、同じポーズのポートレートを組み合わせた。撮影者も同じ荒川弘之でアルバム全体のアートワークも担当している。
「僕はずっと実用音楽を作曲しています。映画全体のサウンドトラックとしてのメジャー・デビューは1989年、五社英雄監督の『226』で、ロンドンのフィルハーモニア管弦楽団を起用する幸運に恵まれました。なかでも対位法を駆使した『キリエ』はすごく美しい音楽。自分でも指揮したくなって今回、弦楽合奏で入れ直したのです」
アルバム冒頭の「RE-BORN」は『226』に先立つ1987年、今関あきよし監督のインディーズ映画『りぼん RE-BORN』のために書いた音楽のラストテーマを作り直し、小林沙羅の歌をフィーチャーした。小林のもう1曲、「The Beginning」は1984年に『NHKスペシャル』の音楽のプレゼンテーション「最後の2人」に残り、採用を逃したものだが「どこかでもう一度生かしたい」と思い続けて今回、よみがえらせた。実妹の真理子が奏でる「FANTASIA」も元は1986年、松下電器産業(現パナソニック)のオーディオブランドのCFで使用された音楽で「多調&不協和音を使っていながら、そうは聴こえない工夫を施しています」。3曲とも南に「何を書いてもいいが、藝大生の誇りを持ってやれ」と言われた、まだメジャーデビュー前の作品だが、「人に聴いていただいて命を授かるため、いかに心地よい音をつくるかの思念には当時も今も、全く変わりがありません」と言い切る。
トラック6で真理子のヴァイオリンが入る「V」、8でオーケストラのみの「IV-2」と二度にわたって現れる楽曲、「A・Va・Ra・Ha・Kha」は2011年、NHKのEテレ教養番組『極める!』の「千住明の聖地学」に出演した際に作曲した。高野山を訪れ、弘法大師空海の5つの言葉に「これは真言宗の“讃美歌”ではないか!」と惹かれ、書き下ろした5曲からなる組曲のうちの2曲。真理子の演奏活動50周年を祝う5月のコンサートでは日本画家の兄、千住博が高野山に納めた襖絵を展示した舞台での演奏が実現した。
「きょうだい3人それぞれ、職人芸の世界に生きているのかもしれません」
最新作は7曲目の「Breath of Life」。大阪・関西万博で「いのちの象徴として、アンモナイトの螺旋形状を採用した」パビリオン、パソナ館で「それぞれの部屋を結びつける音楽として作曲しました」。元はマルチチャンネルのインスタレーションだが「アルバムでは2チャンネルにまとめ直し、パートも増やしています。これ以外は全曲、アコースティックのオーケストラ演奏です」。アカデミズムからエンターテインメントへと自身の世界を広げて40年。
「僕はここ(原点)へ戻ってきて、はっきりと清々しいです。後進の人たちにも、何でも捧げていきたいと思っています」
取材・文:池田卓夫
(ぶらあぼ2025年11月号より)
【CD】
『RE-BORN』
エイベックス・クラシックス
AVCL-84180
¥3300(税込)

池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com


